「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」感想


 「ハゲタカ」「竜馬伝」大友啓史監督仮面ライダー電王佐藤健主演和月伸宏の人気コミックるろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」を原作とする、実写映画化第2弾、及び第3弾にして完結編。日本政府転覆を企てる志々雄真実一派と、剣心の宿命の戦いを描く。

 いきなりだが、まずはマイナス面から書いていく。
 やはり何と言っても、前後編合わせた尺の長さはいただけない。原作のストーリーを多少なり端折りつつ、可能な限り忠実に映画用にシェイプさせた結果であり、その尽力そのものは評価するとしても、その分間延びする場面、あるいは意味不明になる要素が見受けられたのは非常に痛いポイント。

 まあ、実は原作を読んでいないので、あまり偉そうな事は言えないのだが(笑)、元々一話ごとのクライマックスを積み重ねていく漫画と、おおよそ2時間の尺の中に起伏をつける映画では、根本的なストーリー構成論から違うので、それをそのまま置き換えるのには、相当なムリがある。
 多くの漫画を原作とした実写映画が成功しないのは、キャストがどうこうと同等やそれ以上に、その辺の事が関わっているのではと勝手に邪推しているのだが、本作もまた多分に漏れず、上手くコンバート出来ていたとは正直言い難い。

 特に前編の「京都大火編」は、物語上仕方がないにしても、いわゆる「繋ぎ」的になってしまった観が否めず。一応、それなりのクライマックスは用意されていたとはいえ、新しい逆刃刀を手に入れる件と、剣心が海に転落するクリフハンガーだけでは、どうにも盛り上がりに欠ける。

 そこは原作を無視してでも、志々雄十本刀の誰かに完膚なきまでに打ちのめされて、ビジュアル的にも「こんなヤツら、どうやったら勝てるんだ?強すぎるだろ!」と、観客を後編の公開までハラハラさせる脚色の一つも欲しかったところ(宗次郎との一件とは別に)。その十本刀に関しても、半分以上がほとんどモブ扱いだったのは、実にモッタイナイ。

 まったく私見ながら、前後編になるのは百歩譲っても、せめて尺をもう20分でも短くした上で、例えば宗次郎へのリベンジマッチを前編のクライマックスに持ってくる、といったカタルシスを用意されていてもよいではと思った。
 無論、原作ファンからは大ブーイングだろうが、上記した点も含め、宗次郎を倒す→船上で志々雄と対峙→しかし十本刀に阻まれボコボコに→と一緒に海にドボン→ましゃ登場、という流れの方が、映画として適しているのではと、素人考えを呈してみる。

 とはいえ、ではこれが物凄くつまらないのかと言われれば、さにあらず。むしろ、近年の漫画・アニメを原作とした実写映画の中でも、かなり完成度の高い部類と言える。我ながら非常に面倒くさい言い回しだが、多くの欠点を孕みつつも、エンターティメントとしてしっかりと地に足のついた作品だと評したい。

 とにもかくにも、ただのコスプレ映画になっていない点、そしてちゃんとした時代劇になっている点、この二つに尽きる。
 原作キャラクターの再現度の高さもさる事ながら、悪い意味で漫画的な、まるで宇宙人かタイムトラベラーのごとき違和感の塊にならないよう、時代考証にうまく溶け込ませている点は、前作同様お見事。また、変に現在ナイズされていたり、意味もなく横文字を連呼するような愚考には走らず、あくまで明治という時代を忠実に、絵として再現しているのも好印象。個人的には、志々雄の包帯グルグル巻き姿を、よくもまああそこまで完全再現、且つカッコいいものにしてくれたなと、妙に感心してしまった。あれぞまさしく、美術スタッフさん達の尽力の勝利だ。

 肝心のアクションも、日本伝統の剣戟に、ワイヤースタントやVFXをふんだんに取り入れ、独自の進化を遂げた「ネオ・チャンバラ劇」とでも呼ぶべき面白さでグッド。確かに、回し蹴りすら存在しなかったとされるこの時代に、堂々とローリングソバットをぶちかましているという意味では、時代考証無視とも言えるが、その辺の野暮は言いっこなしという事で。それを言ったら、バックドロップだって存在してないし(笑)。

 前々から言っているとおり、小生は「電王」の頃から、剣心役を演じられるのは佐藤健くんをおいて他にいないと断じていたが、そのルックスと身体能力の高さに加え、芝居に対する勘の良さも相俟って、こちらの想像を越えるハマリ役っぷりを披露してくれたのは、嬉しい驚き。
 彼の地を這うような低空ダッシュと、ダイナミックでアクロバティックな殺陣は、それだけで本作の完成度を高める、説得力となっている。彼をはじめ、斉藤一演じる江口洋介四乃森蒼紫演じる伊勢谷友介比古清十郎演じる福山ましゃ治氏ら出演陣も、実にいい仕事。もちろん、志々雄演じる藤原竜也くんの怪演ぶりにも注目。

 どうすれば面白い作品になるのか、お客さんが気持ちよくお金を払ってくれるのか。スタッフや出演者達が真剣に考え、エンターテイメントとしての完成を目指した成果こそ、本作の出来に違いあるまい。単純に比べるのはナンセンスとは分かっているが、どこぞの世界一の大泥棒アニメの実写版との徹底的な差は、まさにこの点だと断ずる。

 そういえば、原作にはもう一エピソード、剣心の前の嫁さんの話が残っていたと記憶しているが、あれは映画化しないのだろうか。確か、敵役にスポーンそっくりなヤツがいるので、版権的に難しそうなんだが…(笑)。
 ともかく、原作を知らなくても充分楽しめるので、気になる人は是非!

 ☆☆☆★★+++

 山口県民としては、我が郷土が誇る偉人・伊藤博文が悪人みたいな扱いだったのがちょっと不満(笑)。まあ、あれは立場上しょうがないんだけどね。星3つプラス3つ!!