「カノジョは嘘を愛しすぎてる」感想


 青木琴美原作。Cheese!』(小学館にて連載中の人気コミックを、「ガチ☆ボーイ」小泉徳宏監督るろうに剣心」「仮面ライダー電王佐藤健×5000人の中からオーディションで選ばれた新人・大原櫻子主演。


 はっきり言えば、これでもか!ってぐらいベタベタな少女漫画ストーリー。甘くとろける、それでいて切ない、JCJKご用達のド定番キラッキラ恋愛物語で、正直オッサンにはついていけない部分も多々。普段なら、完全にスルーしてしまう部類の映画である。
 が、これが不思議と嫌な気分にならず、思いのほか楽しく鑑賞できたのは、後述する様々な要素も含め、ヒロイン・小枝理子演じる大原櫻子の魅力によるところが大きい。

 確かな歌唱力と、ティーンズらしい瑞々しさと儚さを併せ持った声もさることながら、彼女自身が有する独特の透明感と存在感がとにかく素晴らしい。うまい例えではないが、クラスで一番の絶世の美少女というほどではないにせよ、気がつくと授業中や休み時間、なぜか視線が彼女を探し、遠くから眺めているような。あるいは画面に登場した瞬間から、「この子は他のアイドル連中とは、根本的に何か違う」と思わせる、そういう魅力。
 これまで、小生が観てきた20歳前後の若手女優の中で、「立っているだけで絵になる。その場にいるだけでシーンが成立する」と思わせてくれたのは、エレン・ペイジ桜庭ななみの二人だけだったが、そこへ新たに彼女の名前を並べなくてはなるまい。

 さらに付け加えると、彼女の醸しだされる魅力そのものが、この男子禁制のキラッキラな世界観を包むフィルターとして見事に作用し、普通なら痒くて観ていられないはずの本作を、オッサン目線でも耐えられるモノに昇華させている点にも注目したい。物凄く俗な言い方をすれば、男ならまず間違いなく「可愛い」と感じる、あの容姿と声とキャラクター。もっと俗に言えば、ある種「萌えキャラ」的である(笑)。
 しかしそんな彼女だからこそ、いわゆる少女漫画的な展開にも「この子なら、こうなっても仕方ないな」と思わせる、妙な説得力を持たせる事ができるのだと感じる。本作の完成は彼女あってこそと、ここに強く断じておきたい。

 もちろんまだまだ垢抜けず、演技力その他の面でもこれからという感じだが、オーディション会場で審査員全員、彼女を一目見た瞬間「理子役は彼女しかいない」と確信したというエピソードも頷ける、まさしく「ひょっとしてこの子は、この映画に出演するために生まれてきたんじゃないか?」と本気で思えるぐらいのハマリ役。
 願わくは、彼女にはその神から与えられたギフトを守りつつ、本作を終生の代表作としない大女優へと進化していただきたい。間違っても、変なお笑いタレントや歌舞伎役者に捕まって、スキャンダルだけが売りの「で、アンタ最近何に出てたっけ?」みたいな芸能人モドキにはならないように、事務所もしっかりガードすべし。約束だぞ!(ダレ?)

 さておき。
 彼女に限らず、他の共演者もおおむねグッド。特に、もう一人の主人公演じる佐藤健くんは、天才肌で常に情緒不安定という見た目的に脆く幼い役柄を演じながら、同時に(失礼ながら)これまでまとわりついていた「小僧観」を払拭。キャラクターに反して、これまでで一番の大人の演技を観せてくれたように感じた。「電王」の頃から彼を観ている者としては、これは非常に嬉しいサプライズ。
 また、反町隆史演じるプロデューサーの、音楽を金儲けの道具としてしか思っていない悪い大人っぷりもなかなか。余談だが、彼もまた根っからの悪人というわけではなく、キレイごとやまして青臭い正義なんぞで飯が食えるほど、大人の世界は甘くない事を経験によって学び、それを踏まえているに過ぎないと察する。嘘を享受し、世の中そんなもんだと割り切ってきた彼の言動は、一見して無神経で無責任に思えるが、実は「商品価値を可能な限り高めて売る」という、自身の経営理念に則ったモノに違いあるまい。
 もちろん、それが正しい正しくないは別問題であり、信用・信頼という点においてまったく理に適っていない行動ではあるが、彼はそうした単純な善悪や真偽、あるいは善意と矛盾では計り切れない、摂理のようなモノの象徴にも思えた。

 欲を言えば、そんな彼の「嘘」の翻弄される登場人物たち、特にそれぞれのバンドメンバー達には、何かしらの抵抗を試みるシーンの一つも欲しかったところ。まあ、それこそ青臭い正義であり、手にした地位と栄光をわざわざドブに捨てるだけの価値も技術もないのだから、あえて何もしないという選択もアリだったのかもしれん。


 同じ作者の「僕の初恋をキミに捧ぐ」を含め、ここ数年の少女漫画原作の実写映画は正直「何コレ、SFか?ファンタジーか?メルヘンか?ホンマに日本か?お前らアホちゃうか?」と思ってしまう設定と内容がほとんどだったが、これは久々に面白かった。こんなに良かったのは、高校デビュー以来かもしれん。
 とにかく大原櫻子、今度の動向に注目したい。


 ☆☆☆★★++

 やっぱり映画はちゃんと観て判断しないとダメだな、星3つプラスプラス!!