「舞妓はレディ」感想
「Shall we ダンス?」の周防正行監督、「おおかみこどもの雨と雪」の上白石萌音(かみしらいしもね)主演。京都の花街を舞台に、舞妓になるべく田舎からやってきた少女の成長を描く。
監督曰く、1992年公開の「シコふんじゃった」撮影終了直後から構想を練ってみたものの、主演に適した女優が見つからないため長年封印を余儀なくされていたというこの企画。オーディションの末、2011年の東宝「シンデレラ」オーディション審査員特別賞を受賞した上白石萌音を抜擢し、ようやく日の目を見る事となったという、まさに念願叶っての制作となったそうな。
さておき、タイトルからしてオードリー・ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」のパロディであり、ストーリーも若干パクr…、もといオマージュのような内容であったが、そこはさすがの周防監督。訛り全開のイモ少女が、周囲の人々から厳しくも温かく支えられつつ、不器用ながらもひたむきに努力し、一人前の舞妓として、そして一人の女性として瑞々しく成長していく様を、ユーモアと御涙ホロリ劇を交えて、丁寧に、しかし観客を飽きさせないよう工夫された、一級の娯楽作品に仕上げている。
要所要所で何の前触れもなく、突然歌って踊りだす謎ミュージカル仕様には少々面食らったものの、主人公をはじめとする登場人物の心境はもちろん、花街でのしきたりやその理由、あるいは用語等を、分かりやすく、印象的に表現・説明している仕掛けとして、非常に面白かった。
舞妓さん達の身の回りのお世話をする男衆(おとこし)の存在や、「一見さんお断り」の理由など、花街内のそうした部分を知る事で、より身近に、親しみを感じれる人もいるのではないかと察する。その意味で、本作は芸妓遊びの入門書的側面も併せ持ってるように思えた。
余談だがその昔、少しだけ水商売をかじっていた頃、店のオーナーから、この手の商売の掟について何度か厳しく指導された事がある。まあ、内心「なんでやねん」と思っていたし、そのほとんどは、未だに謎のままではあるのだが(エー)、それにもきっと、何かしらの意味があったのだろうと、今さらながら思い出してしまった。
個人的には、言語学の力を使って、主人公の強烈過ぎる訛りを、キレイな京言葉に矯正するという着眼が、(我ながら随分ベタな例えだが…)作法や芸と同じく、まるで芋虫がサナギになり、そして蝶となって空に舞い上がるまでの工程を可視化しているようにも思え、どことなく「バーレスク」を彷彿とさせて良かった。
そういえば、かの花魁が使う「ありんす言葉」とは、借金の形にと遊郭へ売られてきた田舎娘達が、訛りで出身がバレないようにするためと、どことなくやんごとなき身分の出のような気品を持たせるために覚えさせると、何かの本で読んだ記憶があるが、京都も元は天下の帝が鎮座されていた土地、正真正銘のやんごとなき民としてのプライドが、あの日本有数のお上品なイントネーションを生み出したに違いない。
いわば、あの言葉も含めて、はじめて「京都の舞妓」と見なされるのだろうと、勝手に推測してみる。まあ単純に、小生自身が生まれも育ちもド田舎なので、他県の言葉が気になっただけかもしれないが(笑)。
おそらく、芸者遊びなど一生縁はなく、花街に足を踏み入れる事もない小生だが、未知の世界を知ると同時に、また新たな才能に出逢えた事は大変有意義であった。ちなみに、花街に行った事はないが、飛田新地なら上記のオーナーさんに…いや、何でもない。忘れてくれ。
そういえば、サザンオールスターズの曲に、同じく「マイ・フェア・レディ」をもじったマイ・フェr…いや、何でもない。忘れてくれ。
閑話休題。
最後はホッコリというか、散々引っ張ったのにそんな落とし方でいいのか?という見方もあるが、全体としては笑って泣けて熟練の技が冴える、ソツのない「上手い」作品。大きく尖った部分はないものの、最初から最後まで安定・安心して観ていられるという意味では、模範的な出来。主演の子が、本作をきっかけにブレークしてくれる事を強く願う。
ブレークといえば、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」で衝撃の銀幕デビューを果たした大原櫻子、富司純子さん演じる女将の少女時代なんてチョイ役で、本作に出演していたらしい。全然気づかんかった…。つーか、才能ある子なんだから、もっといい役あげてよ。
☆☆☆★★++
何だかんだで、少年少女の成長譚が一番面白いと思う。星3つプラスプラス!!
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