「ダイバージェント」感想


 ヴェロニカ・ロス原作のSF小説を、リミットレスニール・バーガー監督「ファリミー・ツリー」シェイリーン・ウッドリー×アンダーワールド 覚醒テオ・ジェームス主演で映画化。

 これは正直、心の底からつまらない。いいところを何か一つでも探そうと思ったが、ついに徹頭徹尾、そんな箇所はどこにもなかった。

 この手のディストピアものにありがちな、恒久的な平和のために、人民を数種類のカテゴリーに分けてーなんて設定、今まで何百回観てきたやらで、目新しさもヘチマもなし。頭のいいグループ、血の気の多いグループ、正直者のグループ他という随分おかしな括り方もさる事ながら、例えばそこから数人適任者をバランスよくチョイスし、100人〜200人単位のコミュニティーで生活させる、とかならまだしも、同じ派閥同士で生活区間までまとめるなんざ非効率甚だしく、まして、一度の適正テストでその後の人生が決まるとか、一度決めた派閥は一生変えられないとか、ムリがあるにも程がある。

 また、適正テストでどのカテゴリーとも分類できない「異端者(ダイバージェント)」を、平和を脅かす存在と見なし排除するとして、彼ら彼女らの一体何が脅威なのかイマイチ分かりにくいのも、痛すぎるマイナスポイント。だいたい、勇敢さや知性、思慮深さ、正直さを兼ね備えた人間なんざ、別に珍しくも何ともないだろう。その中から、特に秀でた感性のみが測定されるとしても、教育や環境で何とでもなるような気がするのは、小生だけか。

 いくらフィクションだから、SFだからと、荒唐無稽な設定がまかり通るわけではない。同じやるなら、なぜそんな分け方をするに至ったか、そもそも誰がそんなアホみたなシステムを思いついたのかを含め、観客を納得させるだけのモノを提示するべき。この時点で、物語として破綻している。

 肝心の世界設定がそんな感じなので、ストーリー面の完成度は推して知るべし。さらに、冒頭から終盤近くまで、クソ退屈な訓練シーンや、迫力もヘッタクレもないキャットファイトや、しょうもないティーンズトークや、もっさりとした陰謀や、取って付けたような恋愛要素が延々と続き、瞼を加速度的に重たくしてくれる。
 なぜ家族とは違う派閥を選んだのか、といった主人公の内面についての描写も悉く弱く、加えて、そこそこ広大且つ薄っぺらい世界観を、ほぼ主人公の視点のみで描く事で、なおさら薄っぺらくミニマムに感じさせる狂った演出も、本作のチープさに拍車をかけている。

 集団で列車に飛び乗ったり、あるいは飛び降りたり、奇声挙げながら高架よじ登る事の、一体何が「勇敢」なんだ?あれは「勇気」ではなく「野蛮」、もしくは「馬鹿」と言うんだ。そんな連中に、国の保安を任せていいのか?
 それ以前に、一つの派閥に軍事力を集中させたら、反乱起こされた時に対処できないだろ。それとも、頭のいい連中なりの予防策があるとでも?もしマルクスチャーチルが本作を観たら、鼻で笑うに違いない。ナンセンス。

 何を目指していたかも不明だし、全てにおいてユルユルで中途半端。小娘一人(プラス数人)の反乱で、国家の礎が破壊される「あるある」展開、近未来なのに洞穴みたいなところを拠点にしてる「あるある」設定、どう考えても使いやすさと生産性を無視した「あるある」工業デザイン、そして最後は続編ありますよ感全開の「あるある」エンドと、今日日中国人でもそんなに「あるある」言わないだろってくらいの、まさに「THE・あるある」映画。

 しかし、メリケンのヤングメンとヤングガールズは、こんな程度の話を、本当に夢中になって読んでいるのだろうか。あまりこういう事を言いたくはないが、これが映画化される作品の最低ラインだとすると、ぶっちゃけレベルが低すぎる。某ジャンプなら、10週はおろか掲載すらさせてもらえないと断ずる。そりゃ、トムさんが日本をラノベをわざわざ映画化するわと、妙に納得してしまった。

 何度も言う事だが、子供でも楽しめる作品と、子供騙しはまったく違う。人から金を取って観せるなら、最低限払った金額分のサティスファクションを提供していただきたいところ。というより、この手の作品はもういいよ。

 で、結局あのタトゥー屋の姉ちゃんは何だったんだ?


 ☆☆★★★−

 今回は厳しめに、星2つマイナス!!