「花とアリス殺人事件」感想


 スワロウテイル岩井俊二監督初の長編アニメーション映画作品にして、同監督の2004年公開作品花とアリスの前日譚。

 前作同様、荒井花(花)鈴木杏有栖川徹子(アリス)蒼井優が演じる本作。さすがに10年以上も前の作品の前日談を、生身の女優が演じるのはムリがあると判断したのだろうか。世の中には、30越えた俳優が堂々と高校生を演じている作品も数多く存在するのだが…。

 さておき。表現方法は違えど、良くも悪くもいつもどおりの岩井ワールドといった印象。少女達の溢れるような瑞々しさと、その裏に秘められた残酷さ、あるいは無知ゆえの危うさ、脆さ、賢しさを、水彩画を思わせる優しく柔らかいタッチで紡ぎ出している。

 「殺人事件」という大袈裟なタイトルからして、何かトンでもない大事件に巻き込まれるのかと思いきや、さにあらず。ネタバレになるので詳しくは書けないが、内部構造自体は傍から見ればすごく他愛のない、バカバカしいような事柄の寄せ集めなのだが、個々人の内面にフォーカスする事により、そこにささやかな謎解き、もしくは冒険劇要素に発展、同時にそれぞれを掘り下げ、相乗させる事に成功している。
 かなりメチャクチャやっていながら、いわゆるギャグ漫画的な陳腐を感じないのは、長年実写畑で活躍してきた監督の手腕によるものだろうと推察する(何も、漫画がダメという意味ではない。念のため)。

 ロトスコーププレスコという、アニメ人なら敬遠してしまいがちな手法をあえて採用したのも、世界観へのマッチングはもちろん、実写映画のフォーマットをアニメーションという手法に当てはめるための措置だったように思える。クラスメイトの男子にマウントパンチを食らわすアリスのはっちゃけ具合を含め、いわゆるアニヲタ側にはまったく擦り寄らず、あくまで実写の延長といったスタンスの脚本とキャメラワーク、または登場人物の動かし方を見るにつけ、あながち邪推ではあるまい。

 それゆえアニヲタにとっては違和感を覚え、普段アニメを観ない人にはスルーされる可能性もあるが、その垣根を取っ払うきっかけになりえる新しいチャレンジ枠を提唱したという意味では、大変意義のある作品、かもしれない。これを期に、実写映画の監督が次々とアニメに参入…されたら非常に困るが(エー)、表現方法の形としてはアリ。
 ちなみに、逆にアニメから実写映画撮って、まともに成功した人を、小生は一人も知りませn(以下略)。

 ところで余談。ラストカット、中学3年から一年間引きこもっていたはずのが、なぜアリスと一緒に学校に通っているのだろうか。中学に留年ってあったか?それとも、中高一貫校なのか?小生、何か見落としてる…?

 ☆☆☆★★+

 つーか陸奥睦美の中に人、鈴木蘭々だったのね。全然気づかんかった。星3つプラス!!