「スポットライト 世紀のスクープ」感想


 「靴職人と魔法のミシン」トム・マッカーシー監督マーク・ラファロマイケル・キートンレイチェル・マクアダムス、他出演。2001年、マサチューセッツ州ボストンの日刊紙ボストン・グローブの少数精鋭取材チーム「スポットライト」が、神父による児童性的虐待事件を追ううちに、その裏に隠された巨大な闇に辿り着くノンフィクション。

 本年度アカデミー最優秀作品賞・及び脚本賞を受賞しただけあって、非常に重厚で骨太。ただ、扱う題材がゆえに、小生を含む日本人には、あまりピンと来ない、事の重大さ、深刻さが伝わりにくいのではという懸念を覚える内容だった。

 数年前の小さなコラム記事を基に、神父による虐待事件の追跡調査を行う記者達に終始フォーカス。教会や弁護士から様々な妨害、さらに9・11を経験しながら、徐々に明らかになる事件の全容に、チームメンバーそれぞれが怒りと焦り、あるいは家族や知人への感情、後悔をぶつけ合う、熱のこもったドラマに仕上げてある。
 極めてシンプルな、無駄を省いた演出・構成でありながら、その分、客観的に事件を捉える視点と、実際に動く記者の視点がうまく相乗。淡々と、しかし誰もが予想だにしなかった驚愕の真実を、ただありのまま浮き彫りにする、ある意味での潔さが、観る者にこれを突き付け、どう受け止めるかを静かに問いかけているようでもあった。

 若干ネタバレを書くと、この神父が起こした虐待事件の裏には、同様の事件が山のように存在し、そのほとんど全てが、教会と弁護士によってもみ消されていたという。一つだけを切り取ってみれば、よくて新聞の片隅に小さく掲載される「取るに足らない事件」であり、彼らにとっても、例えばスピード違反や運転中のスマホ使用のように、バレなければどうという事はない、何とでもどうにでもなる事例だと、考えられていたのではと察する(だからやってもいい、という意味ではない。念のため)。
 その小さな、取るに足らないはずの事件が、数十件、数百件と続いていくうちに、いつしか感覚が麻痺し、借金のごとく累積。気がつけば、慣例化してしまったそれが、誰にもどうする事もできない化け物へと変貌していったに違いない。
 それでも、事件の多くが明るみに出なかったのは、おそらく被害に遭った側も、信仰心と神父による信頼から、これは極めて稀な例だ、たまたまそういう運の悪い相手に捕まってしまったんだと、自分に言いきかせ、忘れるよう努めたのではと、勝手に想像してみる。

 だが実は、それらは決して「取るに足らない事件」などではなく、どれもが一人の人間の人生そのものを狂わせる、重大で悲惨な出来事なのである。確かに、作中で明らかになる、膨大な事件の全容には、寒気と吐き気を覚えるが、それ以上に、新聞記事にならない小さな小さな事件の数だけ、一生分の不幸を背負った少年少女が存在し、場合によっては、新たな不幸、悲劇の引き金にもなっていたに違いない。

 その事実に、マイケル・キートン演じるチームリーダーは、慣例の名の下に、その「取るに足らない事件」を無視し続けた事を後悔し、己を恥じた。本作における最重要ポイントは、事件の数そのものではなく、「取るに足らない事件」など存在しない、そこには必ず人の人生があるという、ジャーナリズムの根本を、今一度世に知らしめる事にあったのではないかと考えるが、いかがだろうか。

 惜しむらくは、上記した無駄を省いた構成ゆえに、人によっては淡泊、退屈に思え、そこに秘められたメッセージが伝わりにくいのでは?と危惧される点と、やはり本来仏教国である我が国には、教会、あるいは神父が、キリスト教圏の人々にとってどれほどの存在なのか、いまいちピンと来ない点。まことに失礼ながら、仮に住職や神主さんが、同様の事件を起こしたとしても、おそらくここまで大騒ぎになるとは想像しにくく、また、衝撃もないのでは。
 こればっかりは何とも言い難く、作品自体の評価を貶めるほどではないにせよ、例えば日本の時代劇のように、良くも悪くもその国の文化に裏打ちされた作品というのはあるのだなと、妙に納得してしまった。


 余談だが、かの西城秀樹の代表曲「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」は、元々70年代後半から活躍する、ゲイをコンセプトにした音楽グループ・ヴィレッジ・ピープルのカヴァーで、「YMCA」とは、キリスト教青年会が運営する宿泊施設(Young Men's Christian Association)を指す。
 その施設が、若いゲイ達の出逢いの場(いわゆるハッテン場)として利用される事が多い点から、ゲイを表すスラングとしても広く使われるようになったようだが(ために秀樹氏が、最初にこの曲をカヴァーしたいと言った時は、「君はゲイなのか?」と真顔で聞かれたとか何とか)、もしかしたら、そうなった背景には、単に安価であった以外に、本作のような被害に遭った少年達が集まるうちに、自然とそういう環境ができあがったのではないかと、勝手な邪推をしてみる。
(ゲイの方を批難する意図はありません。悪しからず)

 何の事かよく分からない感想になってしまったが、さておき。単純な娯楽作も大事だが、こうした社会に対して問題を提示する作品も、時には重要なのかもしれない。とにかく、興味がおありの人は是非。


 ☆☆☆★★++

 ちなみに、創ナントカ学会は基本犯罪者軍団なんで、この程度の悪事は日常的に(以下略)。星3つプラスプラス!!