「ズートピア」感想


 シュガー・ラッシュリッチ・ムーア×塔の上のラプンツェルバイロン・ハワード監督による、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ最新作。
 多くの動物たちが人間のような高度な文明を持ち、ともに暮らす近未来都市ズートピアを舞台に、ウサギの新人警察官ジュディと、キツネの詐欺師ニックが、謎の失踪事件を追う。

 最初に断っておく。本作を語るにあたって、高卒低所得たる小生の貧相なボキャブラリーから、ありったけの賛辞称賛の言葉を捻り出そうとも、とてもじゃないが足りない。とにかく素晴らしい。文句なしに素晴らしい。お世辞抜きに、今後登場する全てのアニメ作品にとって、一つの基準、単位となるであろう、歴史的一本と断じておく。

 これまで「どこからツッコんでいいか分からない」作品には、嫌になるほど出遭ってきたが、「どこから褒め称えたらいいか分からない」というのは、本当に珍しい。
 とりあえず、本作の舞台であり、タイトルにもなっている都市ズートピアについて。多種多様な動物たちが、人間のように服を着て、文明社会を営む、見た目の面白さ、ポップでファンシーな世界観はもちろん、種族ごとの大きさや生態、特性に合わせた生活環境エリアや、各サービス等、ギミック面でのアイデアも満載。
 それでいながら、決してみんな仲良しの理想郷などとはせず、住民の心の中に少なからず横たわる、草食の小動物を劣等とみなす偏見、あるいは肉食動物に対する差別意識といった感情を丁寧に、衒う事なく扱い、おそらく有史以来もっとも重要でデリケートな問題である、性別、体格による差異への偏見、あるいは人種、肌の色、出生国、宗教といった自分と異なる者に対する差別、固定観念、ヘイトへの警鐘を、極めて分かりやすく、優しい形で表現する事に成功している。

 本作の鋭いのは、そういったヘイト・偏見が、どこかのバカな大学生グループや、地震も水害も政権が悪いなんてヌカしてるボンクラのようなイカレポンチだけでなく、本来善良であるはずの人達の、善意や親心にも潜んでいると、指摘している点。単なる勉強不足、想像力の欠如と言えばそれまでであり、拭い切れない劣等感、または恐怖も確かにあるが、それを受け入れた上で、ではどうすれば解決・達成できるのか、前に進めるのかを、マクロとミクロ両方の視点から問いかける、非常に現実的でシビアなメッセージを孕んでいると感じられた。


 主人公ジュディについても触れておきたい。ウサギ初の警察官になる夢を、親を含む周囲から「無理だ、諦めろ」と言われ続けながら、ひたむきな努力で叶えるも、配属先では小さな身体を理由に役立たず扱い。活躍の場を与えられず、理想と現実のギャップに打ちのめされ、何度も失敗と挫折を繰り返しながら、持ち前のガッツで逞しく成長していくその姿だけでも、十分見応えアリ。
 また、ひょんな事から相棒となるキツネのニックとのコンビネーションも抜群で、生真面目な性格を逆手に取られ、言いくるめられるばかりでなく、逆に詐欺師には詐欺返しとばかりにお株を奪う騙しのテクニックで、イニシアチブを握る強かさを見せる事で、二人の関係に絶妙なパワーバランスをもたらし、バディものとしての楽しさをも成立させている。
 何より、近年のディズニー作品に見られる、大時代の「王子様に守られるか弱いお姫様像」からの脱却を象徴するかのように、繊細で優しい心と、ピンチや逆境に屈しないタフなハート、エネルギッシュな行動力、そしてコンプレックスさえ強みに代えるポジティブさが、多くの人に共感を呼ぶ事ウケアイ。随分アレな言い方だが、ウサギそのままのフォルムながら、一人の女性として、すごく魅力的でチャーミングとさえ思えてしまった。
 多分、お見合い相手でこんな子が来たら、出逢って数秒で結婚を決める(笑)。いや、そもそもお見合いなんかしないし、結婚する気もないけど…。

 閑話休題。そうした、高いメッセージ性と、サクセスストーリー、あるいはバディものの面を併せ持ちながら、肝心の物語の大筋となる、サスペンスの部分も極めて良好。事件を追うごとに二転三転する展開もさることながら、その裏に隠された陰謀もまた、なるほどそうきたか!と膝を叩く完成度。
 さらに恐ろしいのは、内包されたこれらの要素全てが、単体として観ても一級の出来であり、しかもどれ一つ破綻する事なく、完璧な形でお互いを相乗し合い、一本のアニメ映画として共存している点。
 まがいなりにも映画ヲタクの末席を汚し、このような映画レビューの真似事などをさせていただいている身である小生だが、未だかつて、ここまで完成されたプロット、脚本というものを観た事がない。それでいて、観終ってグダーっと疲れるような事もなく、ちょうどよい密度と上映時間。例えるなら、満腹度よりも満足度が抜きんでて高いという、至れり尽くせり具合。

 かつて、車や飛行機、あるいはオモチャや恐竜といったモチーフを使い、物語を紡いできたディズニーだが、中には「なぜ、このモチーフでなければならなかったのか」と疑問の残る作品も多少存在した。が、本作に限って言うならば、動物達が主人公でなければ、あるいはアニメーションでなければ、この物語は成立し得なかったと断言できる。まさに、全ての要素がパーフェクトに機能した、近年稀に見る完璧な仕事と、最大限の敬意と持って評したい。繰り返すが、これはアニメーションの可能性を現在進行形で指し示した、歴史的な一本である。

 上記したとおり、小生の無学な頭ではこれが限界。とにかく面白い。とにかく素晴らしい。とにかくできるだけ多くの人に観ていただきたい。こんな作品に出逢いたくて、俺は映画館に足を運んでるんだと思い出させてくれた、本作に関わった全ての人々に心からの感謝をお贈りします。


 ☆☆☆☆☆

 「REDLINE」以来、約5年半ぶり。星5つ!!

 余談。捜査のためにヌーディストの館に行くエピソードが、個人的に超お気に入り。動物が服を着ているのが当たり前という設定を逆手に取った、見事なシーン。特に象の場面なんて、実写ならウーピー・ゴールドバーグあき竹城さん辺りが、全裸でヨガやってるようなもんだから、モザイクだらけでR-18 どころじゃ済まないだろうなと(笑)。


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