「白鯨との闘い」感想


 ナサニエル・フィルブリック著「復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇」原作。ハーマン・メルヴィルの海洋小説「白鯨」のモデルとなった捕鯨船沈没事故を、「ラッシュ/プライドと友情」ロン・ハワード監督マイティ・ソークリス・ヘムズワース主演で映画化。

 「白鯨」は学生の頃、図書館で読んだ覚えがあるのだが、どうしても内容が思い出せない。何せ20年以上も前の事なので、色々と記憶がごちゃ混ぜになっているが、確か当時も「これは実話である」みたいな注意書きが書いてあった気もするので、もしかしたら他の海洋小説と間違えているのかもしれない。

 それはさておき。
 タイトルからして、モンスター級の巨大クジラと、海の荒くれ者達による、壮絶なリアルモンスターハンター的な内容かと思いきや、むしろその後に訪れる苦難と決断がメインの、サバイバルヒューマンムービー。それはそれで良かったのだが、この邦題に釣られてチケットを買ってしまったヤングカップルや、血気盛んなヤングメンは、別の意味で凄惨な光景に、さぞ唖然とするものと察する。
 そこにまんまと騙される客を取り込む作戦、と思ったかどうかはともかく、いい加減「ロッキー」を恋愛映画として宣伝した、当時のアンポンタン体質そのままの日本映画広報業界を、一刻も早く何とかするべきではと、苦言を呈しておく。

 とはいえ、文明の利器など到底及ばない、自然界の神々しいまでに圧倒的な力と、極限状態の中、人としての尊厳と理性、社会的倫理、法、信仰、その他諸々と、今日一日を生き延びるための糧を天秤にかけざるを得なくなった人間の行動を、巧みな演出とキャメラワークと用いてフィルムに収めている点は高評価。

 また、クリス演じる一等航海士と、その手腕を認めながらも、彼と衝突するベンジャミン・ウォーカー演じる船長、そして事故の唯一の生き残りにして、本編の語り部であるキャビンボーイのトマスの3人を中心としたキャラクター相関もなかなか見応えがあり、事故の前と後では、印象がガラリと変わったりと、人の本性のようなモノが垣間見える点もグッド。

 ベン・ウィショー演じるメルヴィルが、老いたトマスから事故の様子を聞き出すという形式のため、二つの時間を隔てた二重のドラマに仕立てるメリットもある反面、それも含めて、テンポの悪さというか、若干間延びした印象を受ける場面も多々あったものの、その辺は個人の感覚次第という事で、大目に見よう。


 一日本人としては、捕まえたクジラの油だけを獲って、残りは捨ててたような連中が、今さらクジラは頭いいから食うなとかどの口が言いやがるんだコラ、と思えなくもないが、人類の文化がいかにして発展してきたかを改めて考え、先人の苦労を推し量るとともに、人がどうこうできる範囲は、実は意外に限られていると思い知る、いいきっかけになるかと。

 あと、ソーだったらクジラぐらい、雷落として倒せよとか思っちゃったのはナイショ(笑)。


 ☆☆☆★★++

 でもまあ、よくある話なんだけどね、飛行機事故とかでも(ネタバレ禁止)。星3つプラスプラス!!

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