「ブリッジ・オブ・スパイ」感想


 プライベート・ライアン」「ターミナル」スティーヴン・スピルバーグ監督×トム・ハンクス主演。冷戦中の真っただ中、FBIが逮捕したソ連のスパイと、ソ連の捕虜となったアメリカの偵察機パイロットとの交換のため奔走した弁護士の姿を描く、歴史ヒューマンドラマ。

 いつもの事ながら、こうした史実に基づく作品を観るたびに、自分がいかにモノを知らないかを思い知らされる。アメリカとソ連の間に、長らく冷戦と呼ばれるイデオロギーの対立があった事や、戦後ドイツが占領国によって分断、ベルリンの壁で西ドイツを包囲していた事など、それなりの知識はあるものの、それがどういった経緯でそうなったのか、あるいはその背景に何があったのかを、悉く存じ上げない。
 もうすぐ不惑になろうかという身で、実に情けなく、恥ずかしい限りだが、これを機に少し勉強し直すべきなのかもしれない。問題は、範囲が広すぎてどこから手を付けていいのかさっぱり分からない事だが…。

 さておき。大きな戦闘シーンや銃撃戦のような、派手な場面はほとんどなく、基本トム・ハンクス演じるドノバン弁護士による交渉、または会話劇がメイン。
 ともすれば一瞬で瞼が重くなるような内容にも関わらず、静かな中にもピンと張り詰めた緊張感と、言動一つで全てが水泡に帰し、最悪米ソ間戦争も起こり得るというスリリングな展開の連続に、退屈するヒマはナシ。
 決して扱いやすいとは言い難いこの題材を、そこに含まれるメッセージ性を損なうことなく、しっかりと一級のエンターテイメントに仕上げてくる手腕は、さすがは天下のスピルバーグと言ったところか。

 主演のトム・ハンクスも、またいい仕事。交渉相手であるソ連東ドイツはおろか、自国アメリカ国民にさえ疎まれ、時には家族ともども憎しみの対象として攻撃されながらも、あくまで政治的なコマとしてではなく、一人の人間として捕虜と対等に向き合い、真心を持ってその開放に努める弁護士を熱演。
 コメディ出身らしく、時折コミカルな演技で場面に緩急をつけるとともに、冷え切った作品世界にかすかな温かみをもたらし、血の通った人間のドラマを、より力強く、より鮮明に描く事に貢献していると感じられた。

 ハンナ・アーレントによる、アドルフ・アイヒマンの裁判記録「イェルサレムのアイヒマン」の発表が、本作よりおおよそ3、4年である点を考えると、ドノバンの行動がどれだけ批難され、また勇気を伴うものであったかは、想像に難くない。
 そういう時代だ、と言われればそれまでかもしれないが、彼がお互いの捕虜が交換・開放される事そのものより、開放された後どうなるのかを気にかけていた点からも察せれるように、国や組織の一単位ではなく、一個人の生命と尊厳こそ、実は最も尊ばれるべきであり、それが結果的に全体をよりよくし、個々の誇りへと繋がっていくのではと、本作は伝えていると感じられた。

 みんな特別なオンリーワンと歌っていたグループが、所属事務所の圧力でタレント生命の危機に直面している昨今(オイ)、自分に誇れる仕事とは何か、相手を真に尊重するとは何かを、本作を通じて考え直してみるのも、悪くないかもしれない。


 ハイ、学のない高卒低所得には、これが限界です(エー)。


 ☆☆☆★★++

 つーか、橋はそこまで重要じゃなかったよね?(暴言)星3つプラスプラス!!

 

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