「グラスホッパー」感想
伊坂幸太郎原作のベストセラー小説を、「脳男」の瀧本智行監督、「予告犯」の生田斗真主演で映画化。婚約者を殺した真犯人に復讐を誓った元教師が、予想外の事態に巻き込まれていくサスペンスアクション。
一概に比べるのはナンセンスだと承知の上で書くが、先日レビューを書いた「ジョン・ウィック」がクライムアクションの好例だとすると、これは典型的な悪い例。
第132回直木三十五賞候補作だけあって、ストーリーそのものは非常に見応えがある。虫も殺せない平凡で善良な男と二人の殺し屋、接点を持たないはずの3人を中心に、事態の裏に張り巡らされた思惑と陰謀の交錯、そしてラストに向けてそれらが収束していく様はなかなかに面白く、生田斗真くん演じる主人公の鈴木をはじめ、誰が敵か味方か、誰が最後まで生き残るのかといったバトルロワイヤル的要素、あるいは浅野忠信氏演じる鯨、山田涼介くん演じる蝉をはじめ、登場人物それぞれの視点から物語を形作っている点も、グランドホテル形式を彷彿とさせて好印象。
が、そうした好材料を生かすための画面作り、及び主要人物の掘り下げが思いのほか弱く、全体的に平平凡凡とした内容になってしまったのは、何とも残念。中でも一番の問題は、アクションにしろ演出にしろ、いちいちを「カッコよく」撮ろうとしているように見受けられた点だと、個人的には思う。
例えば演者の芝居、セリフ一つとっても、まるでミュージカルか外国のアニメよろしく、ムダにキザだったり、必要以上に悪ぶってみせたりと過剰に誇張するようなシーンが多々。特に、名指しで申し訳ないが、菜々緒演じる比与子は、無理に怖い女を演じようとしているのが見え見えで、逆に何物にも見えなくなっていた。
また、アクションに関しても、わざわざナイフで人を殺す前後に「ため」と「見栄」を入れる余計なひと手間を加えたせいで、迫力を削いでいるという痛恨のミス。戦闘中に決めポーズを取ったり、カッコいい姿勢で一瞬止まってみせたり、なんてのは、仮面ライダーやスーパー戦隊みたいな「カッコよく戦う事が目的の」特撮ヒーローだからこそ許されるのであって、リアルファイトの最中にあんな事やってたら、その隙にボッコボコにされるに決まってる。
もっとも、たった一人で乗り込んできた山田くんに、大勢で取り囲みながら一人ずつ殺されに行く、非常にお行儀のよい連中だったから何とかあったものの(皮肉)、リアリティという面からしても、もう少し考慮すべきだったと、苦言を呈しておく。
さらに言うなら、途中から鈴木の視点の裏に隠れた「影」の存在が何となく確認できてしまうのは詮方ないにせよ、色んな面が雑すぎて、結果的に「まあ、そうですよね。そうなっちゃいますよね」といった具合になってしまっているのも、まったくいただけない。しかも、例によってラストに口頭でこれまでの経緯を全て説明というガッカリ展開で、正直ゲンナリ。せめて例のアイツは、ギリギリまで正体を明かさず、何なら見えないところで仕事をささっと済ませ、ワンカットだけちらっと映って退散、でもよかった気がする。
上記したアクションもそうだが、なぜ日本映画界は、こうも同じパターンを何度も繰り返すのか。日本人が続々に進出し、やっと世界に認められたと喜んでいる関係者もいるようだが、実は単純に自分たちが見捨てられようとしている点に、一刻も早く気づいていただきたい。
肝心の復讐対象も、ヤクザというよりチンピラの寄せ集めのようで、まるで新宿の裏社会を牛耳っている貫禄と迫力は皆無。そもそも、一端の悪党のつもりか何か知らないが、あんな某「クローズ」にインスパイヤされたままオッサンになったようなボンクラに、近いうちに組織の全権を委ねようと思っていたとか、正気の沙汰とは思えない。
悪とは本来、非論理的で幼稚で要領が悪いモノだが、あんな格好ばかりの三下集団、誰が手を下さなくてもそのうち勝手に自滅するか、仲良くしてる国家権力の方々に見限られてぶっ潰されるのがオチだと思うのは、小生だけか?
どこまでが原作通りで、どこまでが端折られたのかは存じ上げないが、身も蓋もない事を言えば、文章で読む分には面白いが、映画化にはあまり適してなかったのでは。もしかしたら、WOWOWかNHKの全4〜6話のドラマなら、もっと良いモノができたのでは、と勝手に想像してみる。
どうでもいい余談。ドラマ「ウロボロス」を観ていたせいか、途中から鈴木が覚醒して、菜々緒と黒服どもをフルボッコにしていったら面白いのになーと思ってたけど、そうはならなかった。残念(エー)。
ハイ、今回はこの辺で。
☆☆☆★★−
それから、何年も前から冷凍庫に入れといたポタージュは、さすがに食べない方がいいと思うんだ(台無し)、星3つマイナス!!
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