「クーデター」感想


 「デビル」ジョン・エリック・ドゥードル監督ミッドナイト・イン・パリオーウェン・ウィルソン主演。海外赴任先の東南アジアで、クーデターに巻き込まれる家族の逃走劇と描く、アクションスリラー。

 これは単純に面白い。多少語弊のある言い方かもしれないが、発展途上国と資本国家アメリカとの軋轢を背景に、ものすごく複雑且つ重厚、説得力のあるストーリー設定を抱えながら、戦う術を持たないごく平凡なアメリカ人男性が、妻と娘二人を守りつつ、暴徒からひたすら逃げ続けるシンプルでスリリングな構造は、「もし自分が同じ状況に陥ったら…」という絶望的なまでのリアリティの観客に与えると同時に、ゾンビでもモンスターでもない、つい昨日まで当たり前に生活していたであろう人々が、一瞬にして殺戮者と標的へと変貌する恐怖を、見事に体現してくれている。

 特殊部隊出身でもなく、ましてオーバーテクノロジーによるスーパーパワーが使えるわけでもない、まったく普通の親子だけに、傍から見ると相当ムチャな方法で逃げ回り、時には勝手な行動で逆にピンチを招いてしまう等、「お前、余計な事すんなよ!黙って大人しく隠れとけよ!」と思わず突っ込みたくなる場面も多々あるが、そうした危なっかしさが異常事態に不慣れな一般人らしさを強調し、より物語を生々しく、呼吸のも躊躇わせるギリギリ感を生み出していると感じられた。

 また、外国人は皆殺しだとカラシニコフを乱射、ついには戦車まで持ち出す暴徒達の、憤怒とも愛国心ともつかない混濁した感情の塊に、剥き出しになった人間の残酷な本性と、場の渦流に個としての人格を溶かした者の哀れを垣間見たが、実はそんな彼らも、祖国の繁栄と安寧を願う一般市民であり、追われる立場にある主人公親子と、根本的な部分で大差はないに違いあるまい。
 まあ、こういった暴動が起こる際は、必ず国家転覆か何らかの収益を望む先導者がいるのが世の常であるが、そう考えると、これが簡単な暴力ではなく、二つの国と思想を隔てる得体の知れない怪物のような何かを、感じずにはいられない。昨今の我が国の内情を鑑みても、これをフィクション、あるいは対岸の火事と切り捨てるのは、少々おめでた過ぎるのでは?と思わずにはいられなかった。

 絶体絶命のピンチに颯爽と現れる、ピアース・ブロスナンのイケメンっぷりも含め、先の読めない緊張感の連続に、いつの間にか手に汗ビッショリ必至。鑑賞後、子供を連れて発展途上国に旅行に行くのやめようと思う事ウケアイ(笑)。

 しかし、オーウェン・ウィルソンはずっとコメディの人だと思っていたが、こんな芝居もできる俳優だったのか。今度、他の出演作もDVDで観てみよう。


 はい、なんかスゲェ簡単だけど、今回はこの辺で。


 ☆☆☆★★+++

 結局、一番怖いのは「正義」の名の下に行われる暴挙なんだよなぁ。どっかの集会大好き大学サークルの連中にも観せてやりたいわ、もちろん向こうの自費で。星3つプラスプラス!!