「心が叫びたがってるんだ。」感想
「とらドラ!」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の長井龍雪(監督)×岡田麿里(脚本)×田中将賀(キャラクターデザイン)による、長編アニメーション映画。言葉を発する事ができなくなった少女が、突如任命された「地域ふれあい交流会」実行委員のメンバーとの交流を経て、とまどいながらも自分の殻を少しずつ破っていく姿を描く、青春群像劇。
小生の大好きな「あの夏で待ってる」を手掛けた、長井監督初のオリジナル劇場用アニメ作品(「劇場版あの花」は除く)という事もあり、公開前から非常に期待していた本作だが、残念ながら本来の力の半分も発揮できていなかった印象。ボーイ・ミーツ・ガールものには定評のある監督だけに、要所要所に光る部分はあったものの、やはりテレビシリーズとは勝手が違うのか、全体的に「あと一歩」という感じが拭えなかった。
物語自体は、決して悪くない。心に傷を抱えた少女が、半ば強引に集められたメンバーとすれ違い、話し合い、徐々に打ち解けていくうちに、同じくそれぞれが胸に抱く痛みに触れ、自身もまた変化していく、至極真っ当な青春ストーリーにして、瑞々しい成長譚。派手さや特異要素はほとんどなく、誰しもが経験したであろう(いや、小生にはないけど)、学生時代の淡い恋心や、小さな後悔、挫折、そしてそれを乗り越えた先にある喜びを、丁寧なタッチで描いている点は、高評価。
しかしその分、展開に抑揚がなく、ミュージカルを題材にしている割に、どうにもリズムの悪さを覚えてしまう。主人公・順に呪いをかけるタマゴにしても、日常の世界に突如現れたイレギュラーというアクセントとしては弱く、同時にアニメーションならではのファンタジー的要素を相乗させるほどの魅力も感じられなかったのは、正直痛い。
作中のキャラクターが見せる、漫画的にデフォルメされた表情や仕草も、良い効果を得られているとはお世辞にも言い難く、かえって、シリアスな場面が白けてしまう事もしばしば。何も、この手の話をやるなら全て実写のように作れ、とは言わない。普通の少年少女達が、当たり前に泣いたり笑ったり恋をしたりをする物語なら、実写には真似できない「ならではの表現」を示してこそ、アニメーションの存在意義ではないかと、小生は思う。
あくまで素人考えではあるが、例えば時間系列そのままに展開するのではなく、冒頭に巧実が自転車で順を探すシーンを入れ、どこかに隠れて蹲っている順にタマゴが周りをコロコロ転がりながら「ほ〜ら、やっぱりこうなっただろう〜?これも全て、呪いのせいなんだよ〜」と呷り、そこから順の回想という形でスタート。その後、順の経験を基に書かれたミュージカルと、それまでの経緯をザッピングで観せていけば、劇中に歌と踊りを自然に組み込みつつ、華やかな舞台と、一人泣き崩れる順とのコントラストで、よりドラマチックに、よりファンタジックに演出する事ができたのではないだろうか。
各登場人物についても、述べてみたい。メインとなる4人のキャラクターは申し分なく、しっかりと物語に機能していたのだが、その他の動いている員数がいかんせん少なすぎる。2時間弱の尺にまとめる際、できるだけ少人数の方が動かしやすいと思われたのではと邪推するが、せめてメインにもう一人か二人、いい意味でカオスをもたらす人物がほしかったところ。特に恋愛劇ならば、焚き付け役というのは非常に重要なポジションのはずだが、本作にそれを担い切れるキャラクターがいなかったのは、非常に勿体ない。
それに準じて言うなら、せっかくクラス全員でミュージカルをやるのなら、もっと他の生徒にも個性を持たせ、フォーカスすれば、青春群像劇としての完成度もグッと向上したのでは。それこそ、巧実と同じDTM研究会の二人に、今まで見向きもしなかった子が「彼らって、こんなスゴい事できるんだー」と興味を持ったり、逆に前から密かに恋心を抱いていたチア部の子と、これを機に距離を縮めようと図るも、実は彼氏いましたでガックリ、といった事があれば。
個人的には、ミュージカルをやると決まった時点で、あれだけブーブー言っていた彼らが、その後ゴチャゴチャあったとはいえ、割とあっさり満場一致で賛成に周ったのが、どうにも納得できなかった。あくまでメインの4人にスポットを当てた結果かもしれないが、その4人でさえ当初はあれだけ揉めたのだから、最初からノリノリで参加する派と、途中からなんか楽しそうだからと乗っかってくる派、そしてそれまで散々不参加を貫いていた大樹が手の平を返し、さらに頭を下げてきた事で「まあ、野球部のエースの頼みじゃ、しゃーねーか」とようやく加わる派の、最低3勢力は出てくるのが、自然というモノのような気がするが、どうだろうか。
ここまで書いておいて何だが、一本の作品として決してつまらないわけではない。むしろ、それぞれの「言えない言葉」や、舞台の配役、ラストの意外すぎる展開等、随所に光る箇所も多々あり、確かなネクストを感じさせてくれる内容ではある。少なくとも、「なつまち」ほどではないにせよ、小生は好き。
とはいえ、人に勧められるかどうかは、また別の問題。監督とライターさんの実力、さらに共にお得意のジャンルである点を考慮しても、本来なら余裕で3ベースか場外ホームランのところが、慣れない環境のせいか良くて1塁打、二塁にカープの菊地涼介がいたら、確実にゴロに討ち取られただろう、そんな作品。とにかく、いろんな意味で惜しい。
小生と同年代という事もあり、御三方には今後とも日本アニメ界を盛り上げる立役者として、益々のご活躍をお願いしたく。特に長井、岡田両氏は、10月から「ガンダム」新シリーズに参加させるという事で、陰ながら応援させていただきます。次回作、期待しております。
☆☆☆★★
つーか、巧実の髪型って海人くんとほとんど一緒だよね(笑)。エールの意味も込めて、少し辛口の星3つ!!
追記。つーか、どう考えても一番悪いのはあの親父じゃないのか?テメェの勝手を子供に八つ当たりって、どんだけクソだよエーコラ!!(謎ギレ)
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