「インサイド・ヘッド」感想


 モンスターズ・インクピーター・ドクター監督ピクサー・アニメーション・スタジオの最新作は、少女の頭の中で5人の感情が奮闘する、脳内冒険アドベンチャー(?)。

 玩具、車、飛行機と来て、とうとう人間の感情までファンタジーにしてしまうとは、毎度の事ながらピクサーの想像力と商魂逞しさには頭が下がる。そういえば昔読んだギャグ漫画で、あるキャラクターの頭を輪切りにして開けてみたら、ちっちゃいそいつがごろ寝しながらテレビ観てたり、ちゃぶ台に座ってお茶飲んでたり、キャッキャ言いながら走り回ってたってのがあった気がするが、あのアイデアピクサーが具体化すると、きっとこういう感じになるのだろう(ソウカ?)。
 次回作は是非、マカロニほうれん荘「やっぱ!アホーガンよ」のフルCGアニメ化をお願いしたい(シネェヨ)。

 さておき。少女の日々の出来事、環境の変化による気持ちの揺らぎを、彼女をより幸せな人生に導こうと尽力するヨロコビたち感情が、色鮮やかでメルヘンチックな脳内世界で繰り広げる大冒険とリンクさせ、誰もが経験するはずの痛みや辛さ、そしてそれを乗り越えて成長していく過程をファンタジックに、しかし極めて現実的に描いている点は高ポイント。
 あくまで脳内世界は脳内世界として切り離し、感情達が少女の前に現れるといった、実際にはありえない奇跡を一切排する事で、いい意味で特別性のない、どこにでもいるごく普通の女の子、しいては本作を鑑賞する全ての人をも、作品世界へと取り込む事に成功している。

 各感情の活躍、特に前半ただのウザキャラだったカナシミの、後半に見せる意外な役割と存在感もさる事ながら、ボンビンをはじめとするそれ以外の脳内キャラクターも、いい仕事。
 あるきっかけにより、遊園地のごとく華やかだった思い出の島が次々と崩れ去り、彼らもまた、忘却の淵へと追いやられていくが、実はそれは、子供の頃の思い出や、空想の友達を遊んだ記憶を少しずつ忘れていく事で、同時に様々な経験を経て、大人へと近づいていく事でもある。一見して残酷なようにも思えるが、大切なものはしっかりと残しつつ、しかし過去にいつまでもしがみつかず、喜びも怒りも悲しみも全てひっくるめて、自らの生きる糧とする。後半、ヨロコビを助けるためにボンビンが取った行動は、その具体であるようにも感じられた。

 天下のピクサーらしく、プロットもストーリーも申し分なく、欠点らしい欠点もほとんど見当たらない。ただ、一つだけ苦言を呈するなら、本編開始前に挿入されるドリカムの歌と、家族写真のスライドショー、あれは良くない。
 今からまさに映画を観ようと身構えている時に、どこの誰とも知らんご家族の喜怒哀楽を延々見せられたところで、我々はそれをどんな顔で眺めればよいのか。まして、そのあとに恒例のショートアニメまで挟まれるので、客としては「いつまでオアズケやねん」と、脳内のイカムカムカがパネルスイッチを連打する事必至。
 ドリカムに恨みはないが、どうせならエンドロールか、その後にでも流した方が、断然良かったと思われる。おそらくは日本語吹き替え版だけの特別仕様と察するが、ピクサー関係者の目に触れて、怒りを買わない事を切に願う。

 世のお父さんお母さんとしては、年頃の子供に何かあった時、「今、君の頭の中では、ヨロコビ達が君を笑顔にするためにものすごく頑張ってるんだよ」といった具合に、うまい事宥めるのに重宝する作品ではないかと(エー)。ちなみに、小生の脳内のヨロコビは、とっくの昔に忘却の崖の底に消えました(エーー)。思い出の球も、真っ黒か粉々に砕け散ってるかだと思います(エーーー)。

 ☆☆☆★★++

 ずば抜けてはないけど、優等生的な作品。星3つプラス3つ!!