「マッドマックス 怒りのデス・ロード」感想


 ジョージ・ミラー監督兼脚本ダークナイト ライジング」トム・ハーディ主演。荒廃した世界を舞台に、怒れる男・マックスが悪漢どもをぶっ倒していく痛快アクションムービー、約30年ぶりとなる新シリーズ。

 公開されるや、低予算にも拘らず、これまでにない世界観と、度肝を抜くカーアクションで世界中に大旋風を巻き起こし、北斗の拳をはじめとするその後の様々な作品にも影響を与えたという、伝説的作品の4作目。正直、前作から四半世紀以上もの時が経過し、また昨今のリバイバルブームを見るにつけ、「何を今さら…」という感覚は拭えなかった。
 しかし、映画は観てナンボという持論に則り、文句はせめて鑑賞してからと意を決し、劇場に足を運んだ次第だが、これがいい意味で予想を大きく裏切られた。面白い。メチャクチャ面白い。単純明快でやりたい放題、それでいて哲学にも似たインテリジェンスすら漂わせる圧倒的な映像と怒涛のストーリー展開で、観終わった直後に思わず「ヒャッハー!!」と叫びそうになってしまった(笑)。
 まさに看板に偽りナシ、今年度を代表するもっとも「ヤバイ」映画と評されるに違いないと確信する、新たな金字塔と断じたい。

 まず何が凄いって、上映時間120分の約8、9割がカーチェイスという、ぶっ飛びすぎた構成(笑)。お馴染みのV8インターセプターはもちろん、ビートルコルベットを無理やり改造した戦闘車両で、炎と黒煙と銃弾と奇声を撒き散らしながら砂漠をひた走る、これ以上ない分かりやすい内容。
 この世のありとあらゆる暴力が描かれてるんじゃないかと思えるぐらい、作中ただひたすらに撃ちまくり、燃やしまくり、殴りまくり、轢き殺しまくり、爆破しまくり、ついでにチェーンソーで斬りまくりで、テンションは徹頭徹尾最高潮のフルスロットル状態。本当に死者が出てもおかしくない、もはやそこいらのアクション映画がお遊戯に見えてくるレベルの壮絶なシーンの連続ながら、それらが決して荒唐無稽なおバカ映像にはならず、むしろこの今まさに終末を向かおうとする人類の衰退を、どんな台詞よりも雄弁に物語る重要なファクターとして機能している点にも、注目したい。

 ストーリー自体は実質、砦を支配する武装集団のボス・ジョー(演じるのは、第1作目で暴走族のリーダー・トゥーカッターを演じたヒュー・キース・バーン)から性奴隷にされている女5人を解放するため、自身の生まれ故郷である「緑の地」を目指すシャーリーズ・セロン演じるフュリオサ大隊長がメインで、主人公マックスはたまたま騒動に巻き込まれたといった具合だが、敵味方それぞれの視点、思惑がふんだんに盛り込まれ、人間ドラマとしての側面をしっかりと持たせてあるのもグッド。
 現在の道徳や人道など一切通用しない、全てが無慈悲で残酷な世界だからこそ、そこで生きる者が何を考え、何を信じ、何のために行動するかを、ものすごく原始に近い本性を浮き彫りにし、描き出すという荒技は、同時に好き勝手にドンパチやらかしているように見える本作の行間に、人の愚かしさと業、そしてどうしようもなさに抗う逞しさをも映し出しているとさえ感じられた。

 小生が特に面白いと思ったのは、マックス達と敵対する武装集団。水(資本)の管理と武力によって民衆を支配するという、これまでか!というぐらい分かりやすい悪党軍団だが、その組織構築論がなかなかに興味深い(倫理的かどうかは別にして)。
 自らを神格化し、自然環境悪化の影響で余命幾許もない若者に「勇敢に戦って死ねば、英雄になれる」と信じ込ませる事で、彼らを恐れ知らずの戦士に仕立てる。観る人によっては「?」な方法かもしれないが、絶望のどん底にある者に偽りの希望を与える事で、意のままに操る事例は、昨今の新興宗教等の事件でもよく見かける。
 現に、一日中仏壇の前で題目を唱えていれば、功徳が積まれて広宣流布が成就されると吹聴する某ナントカ学会員を、小生は何人も見知っている(余談だが、そんな連中が、飢餓で苦しむ民を少しでも救おうと、「念仏を唱えれば極楽浄土に行ける」と説いた親鸞聖人を嘲笑し、時に極悪人のように称するのは如何なもんかと、前々から苦言を呈している。もっとも聞く耳なんぞ持っちゃいないが…)。他人からすればまったく馬鹿げた事でも、当事者にとっては最後に残された一条の光であり、盲目的にすがりつくのも無理からぬ事と察する。

 また、同じく劣悪な環境ゆえか、まともな医療技術がとうに廃れてしまったためか、そのほとんどが後天・先天身体障害者でありながら、それぞれに役割を担い、中にはジョーの息子として幹部に君臨しているのも注目。
 まさかジョーバリアフリーなんて思想があるとは思えないが、五体満足な者の方が少ないであろう中、多少の不便・不自由はさておいても、個々ができる最大の仕事に就かせるという意味では、だいぶ偏ってはいるものの秩序が保たれた状態と言えなくもない。
(差別的な意思はない。念のため)

 もちろん、そのために女子供を誘拐し、あまつさえ家畜のごとく扱う非道が許される事は断じてないが、文明が崩壊し、法や金銭的優劣、あるいは民主主義が完全に意味を成さなくなった時、こうしたプリミティブな社会主義(または独裁)国家のようなコロニーが形成され、そしてそれを享受する者も、支配する側される側双方に現れるに違いあるまい。
 本作はそうした社会哲学、社会心理学、経済学等、様々な側面を内包し、個人及び民衆にとっての自由と平和とは何かを強く問いかけつつ、それら全てをキレイにうっちゃり捨てて大バカ野郎に徹した、いわばクレバー&バカ、クレバカームービーであると断じたい(エー)。

 とにかく、一度騙されたと思って、砂と鉄と火薬と炎と煙と銃弾と血飛沫と母乳が乱れ飛ぶ、この狂った世界を堪能していただきたい。帰りの車内で、思わず「ヒャッハー!」と叫びたくなる事ウケアイ(笑)。

 ☆☆☆☆★

 星4つだぜ、ヒャッハー!!