「王妃の館」感想


 直木賞作家・浅田次郎原作の長編小説を、探偵はBARにいる橋本一監督「相棒」シリーズの水谷豊主演で映画化。フランス・パリのヴォージュ広場の片隅にたたずむ、ルイ14世が寵姫のために建てたとされる伝説のホテル「王妃の館(シャトー・ドウ・ラ・レーヌ)」を舞台に、ワケありな旅行会社とワケありなツアー客とのドタバタ劇を描く。

 水谷豊の、水谷豊による、水谷豊のためのフランス観光コメディ。氏でなければ成立しないと言っても過言ではないほど、独特の世界観と謎の説得力を持つ、なんとも不思議な作品ながら、一本の映画としての完成度はまた別の話し。

 ストーリーそのものは、先ごろ紫綬褒章を受章され、小生自身も大ファンである日本屈指のヒットメイカー・浅田次郎先生の著作という事もあり、非常に面白い。水谷氏演じる天才小説家・北白川 右京を中心に、様々な問題や秘密を抱えてフランスにやってきたツアー客(と、旅行会社社員)が繰り広げる、浅田先生お得意の涙あり笑いの人情群像劇で、幾重にも折り重なっていく人間模様と丁寧なキャラクター描写、さらに右京の紡ぎ出す小説の世界ともシンクロする、幻想的なのにどこか温かみを感じさせてくれる内容。

 奇抜なファッションに身を包み、軽快な身のこなしとインテリジェンス溢れるけどちょっと腹立つ言動の右京のキャラクターもまた、物語を深刻な状況にまで落とし込まないクッション的な役割であると同時に、コメディとシリアスを巧みに切り返すスイッチとして、十全に機能していたと評したい。
 こういったポジションを難なく演じられるのも、水谷氏の尽力か、はたまた才能か。あるいはその両方だろう。


 しかし残念な事に、その他の部分はまったくチープで、悪い意味でワンマン・ワンポイントムービーになってしまっていた観は、正直否めない。せっかくのフランスロケも大して効果なく、諸費用やら撮影許可のために支払ったであろう金額に見合うだけの内容だったか、甚だ疑問。

 察するに、水谷氏の飄々とした演技はヨシとして、他の多くの演者達が氏の芝居に引っ張られすぎ、必要以上にオーバーリアクションになっていた場面が、多々見受けられたように感じる。もちろん、コメディなので多少オーバーに演じなければならない部分もあるのだが、例えば田中麗奈演じる旅行会社社長兼ガイドが、ツアーの秘密がバレないかと冷や冷やするにしても、必死になって大真面目に誤魔化そうとする姿が客観的に見て笑える、といった具合にした方が、より面白い作品に仕上がったのではないかと。
 彼女は言うに及ばず、吹石一恵さん安達祐実緒方直人氏石橋蓮司と、豪華実力派俳優陣が顔を揃えていたにも関わらず、それを活かしきれなかったのは実に手痛い。小生が唱える「オカマキャラの使い方で、その作品の人間描写の良し悪しが計れる説」からしても、やはり決して上手いとは言い難い出来だった。

 俳優についてもう一つ苦言を呈すなら、ルイ14世と、その愛妾ディアナとの間に生まれた息子プティ・ルイを描いた右京の小説世界を、なぜか日本人キャストが金髪のカツラ被って演じている点は、まったくもって解せない。
 あくまでイメージの世界だから、その辺は脳内補完って事で許せよ、というお優しい方もいらっしゃるかと存じ上げるが、割と本気でいいシーンが、あれでは台無し。いくら安田成美さんが名女優でも、ヅラかぶって「ディアナ」は、阿部寛古代ローマ帝国の浴場設計技師、あるいは木の実ナナさん(本名・池田 鞠子)の「キャサリンより無理がある。
 そこはせめて、無名でもいいので欧米人キャストを揃えてほしかったところ。この辺のディテールの甘さが、作品の完成度に大きく関わっていると断ずるが、如何だろうか。

 作りようによっては、もっと掘り下げられたはずなのに、なんとも惜しい一本。同じ浅田作品でも、できれば水谷氏には「天切り松闇がたり」が映画化された際、是非とも親分役で出演していただきたく、そのためにも、どうか本作にはそこそこ客が入ってほしいのだが…。うーん。


 ☆☆☆★★

 あ〜、また好き勝手書いてしまって、お恥ずかしいったらありゃしない(オイ)、星3つ!!