「悼む人」感想


 第140回直木賞を受賞した天童荒太原作の長編小説を、20世紀少年堤幸彦監督横道世之介高良健吾主演で映画化。ある出来事をきっかけに、事件・事故で亡くなった人を悼む旅を続ける男と、彼を取り巻く人々を描く。

 言わんとする事は、分からなくはない。これを観て「感動した」「生と死について考えさせられた」という人がいたとして、それを否定する気も毛頭ない。が、しかし、批判覚悟で正直な感想を言わせていただくと、押し付けな美意識と死生観に違和感を覚えてしまい、最後までまったく共感できなかった。

 本作を執筆するにあたり、著者は実際に日本中の事故現場を数年かけて周ったそうだが、確かに間接的にでも人の死に触れ、その尊さを改めて噛み締める事は、決して間違いではない。日常の中で死に対する機会が減り、そのため人の痛みや命の重さを理解できないアホなガキどもが増えていると言われる昨今、その人が生きた証を記録し、記憶しておく事で、救われる魂もあるだろうと察する。
 しかし、かといって主人公の行動が正義かと問われれば、クエスチョンを呈さざるを得ず、まして仕事も家族もうっちゃり捨ててまでやる事かという疑問が、ひたすら頭に浮かんでしまう。作中の表現から、この旅が自分への罰、あるいは贖罪の意味も込められているとしても、あまりクレバーとは言いがたい。

 いや、そもそもこれという正解がない以上、クレバーである必要はないのかもしれないが、客観的に見て、彼の言動は極端な自己完結に思える。どうする事も出来ない問題をたった一人で抱え込み、自分の内側だけで処理した結果、衝動的に奇特ともいえる行動へと身を投じた、いわゆる厨二病などによく見られるこじらせ型。本人も自身を「病気だ」と語ってはいたものの、何が由来かもよく分からない、仮面ライダーの変身ポーズの出来損ないみたいな謎悼みフォームがまた、その症状を色濃く見せているように感じられた。

 多くの人が否定的、または中傷的な見解を示す中、彼の家族を含め、よい影響を受けた人々にフォーカス、さらにイイハナシダナー的な雰囲気により、さも彼が穢れのない純粋な心の持ち主、神聖なものの具体のように演出されていたが、それこそ作り物めいたあざとさを覚えてしまう。少なくとも、親の臨終より他人の死を悼む方を優先させる者が、聖者であろうはずがない。冷たい言い方かもしれないが、見ず知らずの死んだ人より、まず自分の身近の人の生を尊び、敬うべきではないのか。

 以上の点から、小生は彼を心優しい博愛の人物なのではなく、むしろ自己満足のために人の死にしがみつき、そこに囚われたまま自分の立ち位置すら見失った屈折したナルシシストとしか思えない。逆説的に、あるいは背理法的に命ある事の素晴らしさを問うた作品、と言われればそうとも取れるが、本作を真似して全国悼みツアーなんて企てる単純バカが現れない事を、切に願う。

 さて、念のため少しだけフォローしておこう。主演の高良くんをはじめ、実力派を集めただけあって、演者の芝居そのものは素晴らしい。特に、主人公の母親演じる大竹しのぶさんは、いるだけで場面を印象深いものに変える、一級の存在感。椎名桔平演じるロクデナシのライターも、まさにハマリ役。まあ、家のチャイムを連打されたら、躊躇なくブチぎれるが(笑)。

 それから、なりゆきで主人公の旅に同行する女性を演じた石田ゆり子さん。終始ついて回る気持ちの悪いスタンド(違)はともかくとして、体当たりの濡れ場もさる事ながら、年が一回り違う高良くんと並んでも遜色ないその美貌たるや。本当にキレイな人は年相応にキレイなのだなと、改めて思い知らされてしまった。

 ハイ、今回はこんな感じで。

 ☆☆☆★★−

 つーかコレ、「悼む人」というより「痛い人」だよね。オマケで星3つマイナス!!