「フューリー」感想


 サボタージュデヴィッド・エアー監督ワールド・ウォーZブラッド・ピット主演(兼製作総指揮)。第二次世界大戦末期の1945年4月、第2機甲師団第66機甲連隊に所属するM4A3E8シャーマン「フューリー」号と、そのクルーであるドン「ウォーダディー」コリアー率いる小隊による、ナチスドイツ軍との攻防を描く。

 世界で唯一駆動する、本物のティーガーI戦車を使用して撮影されたとして、戦争映画好きはもとより、多くのミリタリーファンからも注目を集めた本作。あいにく、そっち方面にはまったく明るくないため、その甲斐あったか否かは定かではないものの、主役である戦車を含めた戦闘シーンはさすがの迫力で、カット割りや音響などの効果による抜群の臨場感はもちろん、肉は飛び散り血飛沫は舞い上がる情け容赦ない残酷描写は、同時に戦争という行為の悲惨さ、無慈悲さ、そしてその愚考を犯さなければならない末期的、絶望的状況を、雄弁に物語っていたと評する。

 「世界一セクシーな男」ことブラピ演じるウォーダディーと、ローガン・ラーマン演じる新兵ノーマンの視点を用い、日々繰り返される異常な光景と行為の中、崩壊寸前の自我をナチスへの憎しみにすり替え、狂気を鎧う事で正気を保ち続けようとする男達の心境を、巧みに掘り下げている点も秀逸。
 単純に考えるならば、ノーマンはかつて新兵だった頃のウォーダディーであり、実際、捕らえたナチスの射殺を命じたりと、「こちら側」に引き込もうとする場面も多々見受けられながら、それでもどこかに、「お前は俺達のようになるな」と願っている部分も感じられる。
 中盤、制圧した街で女性二人と仲良くなるシーンなどは、その象徴とも捉えられるが、彼女らもまた、狂気と暴力に一方的に巻き込まれた一般市民という視点を本作にもたらす重要なポジションとして機能し、結果、一見して、キ○ガイの集まりにしか見えないフューリー号クルー達同様、戦争をミクロとマクロ両視点から多角的に映し出す事に大きく貢献している点にも、注目したい。
(ちなみに余談だが、ローガン・ラーガン含むフューリー号クルーのうち4人は、ユダヤ人であるそうな)

 本編の半分近くを、とてつもなく非人道的で、目を覆いたくなるほど残忍なシーンが占める中、登場人物一人一人にフォーカスする事によって、この惨状を作り出したのは他でもない人間の所業であるというどうしようもない事実だと見せつけつつ、それでもこの危機的状況で人はどう動き、どう生きるべきなのかを、逆説的に問うた作品。
 確かに、淡々と、そして淡白に展開していくストーリーを、退屈に感じてしまう人もいるかもしれないし、最後もややあっさり気味で少々面食らったものの、あえて過剰に飾り立てず、そこに人間の行動をキャメラに収めた結果だと、小生は考える。

 正直、ブラピ最高傑作かと聞かれると、頭に「?」が浮かんでしまうが、良作である事は間違いない。戦車マニア、戦争マニアに限らず、上質な人間ドラマが観たい方にもオススメの一本。ただし、相当にグロくて痛くてエグいシーンが連続で出てきますので、苦手な人はどうかご注意を。

 ☆☆☆★★+++

 てか、ブラピの最高傑作はやっぱり「ファイトクラブ」か「セブン」じゃね?星3つプラス3つ!!

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