「猿の惑星: 新世紀」感想


 「モールス」マット・リーブス監督ゼロ・ダーク・サーティジェイソン・クラーク×ロード・オブ・ザ・リングアンディ・サーキス主演。2011年公開の前作猿の惑星:創世記から10年後の世界、進化した猿たちと、生き残った人類との交流と、避けられない争いを描く。

 だいたい、この手のリメイク・リブートものが面白かったためしはなく、そのほとんどがオリジナルに遠く及ばない、箸にも棒にも引っかからんような出来なのだが、本シリーズは非常に稀有な事に、文句なしに面白い。本作、前作ともに、オリジナルに勝るとも劣らない、本当の意味で「新生」と言える作品。

 「猿インフルエンザ」によって、人類のほとんどが死に絶えた世界。シーザーを中心とする進化した猿達は、お互いを家族として守っていくコロニーを形成し、抗体を持つわずかな人々は、残り少ない資源と崩壊した文明の遺産を共有、駆使しながら細々と生き長らえているという対比もさる事ながら(駄洒落じゃないよ、ホントだよ!)、個体としての人間の脆弱さと慢心、組織(会社や街を含む)のあり方と必要性を、さりげなく描いている点はグッド。

 また、かなりハードなディストピアSFにも関わらず、物語自体は実にシンプルで、まさしく「猿でも分かる」内容に仕上げているのも、好印象(ええ、今度のは駄洒落です。それが何か?!)。しかし、ドラマ面での手抜きは一切なく、高い知性を持つゆえの苦悩と哀しみ、小さな憎しみと偏見によってもたらされる悲劇、決して共存できないと分かりながら、お互いを認め合う事で見出されるささやかな希望を、余す事なくキャメラに収めている。

 ものすごく穿った、そして人によっては不快感を示される見解かもしれないが、これをアメリカから観た発展途上国、特にキリスト教圏外の国々に置き換えると、また違った観方もできてくるように思われる。もちろん、そういった国の人達が猿やチンパンジーだと言っているのではないが、要はこれまで先進国が、大量生産のための労働力としてこき使ってきた(であろう)そういった国の人達が、徐々に自国のインフラを整え、技術と経済力をつけて来た昨今、まして結婚式以外でろくに教会にも行った事のない連中と、果たして自分達と対等な立場として、同じテーブルにつけるのか、という事である。
 実際、日本も例外ではなく、同時にかつては敗戦国だの黄色い猿だのと蔑まれていたわけだが、それはともかく。二つ以上の個(種族、あるいは国)が対峙した場合、そこには必ず文化の違いや、考え方の相違が発生する。まして、宗教というものはその中でももっとも影響が強く、時には戦争の引き金にすらなってしまう、誤解を恐れず言えば、ある意味非常に危険な存在でもある。
 お互いの違いを素直に認め、偏見やレッテルを取り払ってもなお、どうしても譲れないもの、共有できない感覚というのは、きっと出てくるはず。それこそ、「俺の信じる神と、お前の信じる神は違う」といった具合に。ならば、それはそういうものだと諦め、共存は出来なくても、お互いいい仲間でいようぜ、協力しあおうぜ、とするのが、もっともベターな選択のように、小生は思う。

 まあ、最近の(…でもないか)某国の言動を見る限り、それ以前の問題が山積しているようにも思えるし(笑)、本作のラストをハッピーエンドと呼ぶのも、やや難しいところだが、本来交わる事のなかった二種間がぶつかり合うなら、ともに根絶やしにするまで殺し合うよりは、平和的な結末なのかもしれない。
 製作者にその意図があったかどうかは存じ上げないが、少なくとも自分達がやって来た事のしっぺ返しと、それらとどれだけ真摯に向き合えるか、そしてこれからどう付き合っていくべきかを、猿達の姿を借りて、あえて理想的ではない形で描いたのでは邪推する。
 その意味では、どことなくもののけ姫イデオンに相通じるものすら、感じられてしまった。

 余談だが、個人的にはシーザーをはじめとする猿達、特に主要人物…もとい主要猿物(?)の描写にも注目したい。いくら知性があるとはいえ、裸の猿が群れをなして行動しているわけだから、誰が誰なのかわけが分からなくなってもおかしくないところを、顔の模様や傷で巧みに特徴付けを施し、見事判別可能にしている。
 また、仲間の猿には手話で会話する点も含め、少ないボキャブラリーを埋めるかのように、表情と仕草で心境、あるいは言わんとする事を伝える演出も素晴らしい。VFX技術と演者の技量によって生み出された、まさに次世代のアクトと評したい。

 展開を観る限り、今後はオリジナルの一作目に繋がっていくと推察されるが、果たしてあの通りになってしまうのか。それとも、何か別の結末が用意されているのか。その前に、続編は制作されるのか、実に気になるところ。クライマックスの防衛戦も迫力満点で、言う事なし。SFファンもそうでない人も、是非とも映画館で鑑賞していただきたい。

 ☆☆☆★★+++

 ゲイリー・オールドマン、今回も損な役回りだったね(笑)。いや、実は彼も決して悪役ではないんだけど…。星3つプラス3つ!!


 でもぶっちゃけ、旧シリーズで面白かったのはコレと「新」だk(以下略)。