「LIFE!」感想


 1947年に公開されたダニー・ケイ主演の映画「虹を掴む男」を、「ナイトミュージアムベン・スティラー監督・製作・主演でリメイク。フォトブラフ雑誌「LIFE」編集部のネガ管理人として働く平凡な中年男が、ある出来事をきっかけに世界を巡り、自分を見つめ直す旅をする叙事詩的ヒューマンコメディ。

 「LIFE」誌といえば、モグリの小生でも知っている世界的に有名な雑誌であるが、随分前に休刊していた事を、本作を観た後にはじめて知った。とはいえ、どんな雑誌だったかはよく存じ上げず、時代の寵児的な人が表紙を飾ったり、その年最も活躍した人を選出したりするアレか?と思いきや、それは「TIME」でしたテヘペロ☆ってな具合で、実際どの程度影響力を持っていたのか、どういう人が主な購読層なのか、未だにさっぱり。
 まあおそらく、日本のゲーム業界におけるファミ通ぐらいには、権威のある存在だったのだろうと推測するに留めるほかないが、そんなどうでもいい話しはさておき、本題に戻る。

 自分探しの旅の末に、求めていたものはすぐそばにあった的な、いわゆる「青い鳥」ストーリーで、正直な事を言えば、序盤でだいたいの展開とオチが読めてしまう内容。しかし、人生の折り返し地点を越えたであろう、主人公と同年代かプラマイ10歳前後の人には、何かしらこみ上げるものがあるかもしれない、そんな映画だった。

 スーパーパワーもなければ、べしゃりが特にうまいわけでもない、重度の妄想癖を除けば、ごくごく地味で平凡な独身中年が、失われたネガを求めて奔走する姿を描いた本作。ここで勘違いしてはいけないのは、これがその平凡さを否定し、人とは違う特別な存在になる事こそが美徳であるとする作品ではない、という点。
 ある程度年を取ると、現実という巨大な壁に自分の限界やできる範囲というモノをまざまざと見せつけられ、「いつかオレはやるぜ」「いつかオレにも眠れる才能が」という、その「いつか」が未来永劫やって来ない事を否が応でも弁えさせられるが(もちろん、本人の努力やその他の要素も含めて)、実は社会の大半を占める人間の中にあって、己の仕事に誇りを持ち、全身で全うできる者こそ、世の中を支え、多くの人々に喜びと感動を与えると、高らかに謳い上げているように感じられた。

 確かに、グリーンランドでヘリに飛び乗り、極寒の海へダイブし、火山灰に追われるのは非常に特殊な経験であるが、それは彼が己の職務を全うしようと奮起した結果に過ぎない。もちろん、経験・体感に勝る知識と学習はないのだが、重要なのは、自分の仕事(責務)を完遂するため、意を決して今までの自分を解放し、いつの間にか構えていた内なるボーダーを飛び越えていた事、と同時に、自分というありふれた存在を肯定しつつ、それでも自分の人生は自分のものだと受け入れ、立ちはだかる現実に向かっていく勇気を勝ち得た事ではないだろうか。

 ものすごく手前味噌で矮小な喩えをする。今から十数年前、小生が当時通っていた専門学校の卒業式に、とある著名な方がいらっしゃり、壇上からこんなような言葉を言われた。
「あなた方はこれから、社会に出ていろんな事を経験します。その中にはどうでもいい事、役に立たない事、無駄な事もたくさんありますが、いつかそれがムダじゃなくなるかもしれません。その時にどうでもいいと思っていた知識や知恵が、意外なところで役に立つかもしれません。だからみなさん、これからたくさんムダをしてください。その中のどれかが、いつか必ず、あなたを助けてくれるはずです。」
 このスピーチに深く感銘を受けた小生は、元々好きだった映画をさらに多く鑑賞するようになり、気になった本は片っ端から読み、気になる場所や催しには可能な限り参加するようになった。結果的に、小生は当時の夢を叶える事はできなかったが、今でもその時に得た「ムダ」が、意外なところで役立つ事が多々ある。その意味では、小生が今もこうしてくだらないブログを書いていられるのは、あの時のお言葉のおかげであり、どこかで縁があれば、心よりお礼を申し上げたいと常々思っている(ちなみにその方は、今テレビで「グレーゾーン!グレーゾーン!」と叫んでたりする)。

 人間何もしなければ、何もないまま時間だけ浪費されていくが、小さな一歩を踏み出せば、その瞬間から良くも悪くも人生は大きく変わる。それが喩え、何も手に入らず、不幸を招く事になったとしても、あるいは自分の無能さ、平凡さを思い知らされる事になったとしても、それに飛び込む勇気を持つ者だけが、真に生きる意味を見つけることができる。それこそが、この映画に込められたメッセージに違いあるまい。


 …とまあ、随分と回りくどい書き方をしてしまったが、このままだとまるで小生がいい人みたいなので、軽く毒づいておく。
 すごくいい話しなのは分かるとして、ちょっと展開がご都合すぎるのはいかがなもんか。写真のヒントが恐ろしいほどキレイに繋がり、最後もまた、うまい具合というか何というか、そんな事ってあるか?みたいな落とし方。
 そもそも、ネタバレになるのであまり詳しく書けないが、例の彼は主人公に会った事がないはずなのに、どうして母親の事は知っている?偶然どこかで出逢ったのか?それとも誰かに紹介されたのか?なら普通に、直接本人に逢いにくればいいのに。あの辺が、よく分からない。

 それから、さらに細かい事を言うようだが、あの年でスケボーに乗れて、しかも豪快なトリックまで極められる人は、充分に平凡ではないと思うのだが(笑)。そんな人がなぜスポーツ用品関係ではなく、「LIFE」誌のネガ管理なんぞやっているのかも謎。何かしら、写真に思い入れでもあったのだろうか…。


 「トロピック・サンダー」「ズーランダー」の印象のせいか、個人的にベン・スティラーはコメディのイメージが強かったが、シリアスもイケる人なんだと認識できたのは、意外な収穫だった。また、カメラマン役のショーン・ペンはもとより、主人公の新しいボスとなるテッド演じるアダム・スコットも、本作のテーマと相反するポジションとして面白い効果を生み出していた点も注目したい。


 この映画に共感できるヤツは負け組だの、共感できないヤツは冷血だのと言うつもりはまったくないが、少なくとも社会人なら一度は観ておく価値あり。特に新社会人諸君は、仕事の臨む姿勢を学ぶいいきっかけになるかと。


 ☆☆☆★★++

 そういや字幕版で観たけど、岡村くんの吹き替えってどうだったんだろう。あんまりベンの顔と合ってない気が…。星3つプラスプラス!!