「ウルフ・オブ・ウォールストリート」感想


 マーティン・スコセッシ(監督)×レオナルド・ディカプリオ(主演)、5度目のタッグとなる今回は、ジョーダン・ベルフォート回顧録ウォール街狂乱日記 - 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生」を原作とした、伝記コメディ。

 まあとにかく、179分これまでかっ!!ってぐらいのハチャメチャッぷり。1990年代、投資家達にペニー株(価値が1ドルに満たない安い株。要するにクズ)を売りつける詐欺まがいの株式仲介業で、莫大な資産を得たジョーダンの、「ヤバすぎる」半生を描いた本作。儲けた金で毎晩のようにパーティー三昧、ドラッグ片手にぶっ倒れるまで乱痴気マジキチ大騒ぎ。1万ドルで女性社員の頭を丸坊主にし、オフィスにまで娼婦をデリバリー、おまけに家族を資金洗浄に利用するという、金銭感覚とともに理性も良識も人間性すらも崩壊していく様を、豪華絢爛で破天荒な、しかし圧倒的且つ絶望的な危うさを孕んだ映像で、ひたすらに見せつけてくれる。

 そして何といっても出演陣、特に主演のディカプリオが素晴らしい。タイタニックで世界中の女性のハートを虜にしたレオ様が、ベジタリアンでプライベートではプリウスを乗り回す、ハリウッドきってのエコロジストたるあのディカプリオが、ハイテンションで雄叫びを挙げ、”F”から始まる放送できない四文字の単語を連呼し、ついには尻出しフルチンで大暴走。並の俳優なら躊躇してしまいそうな難役を、悪ノリお下劣全開、しかしどことなくインテリジェンスを匂わせる熱演で、本作の完成度に貢献している。
 彼の出演作を全て観ているわけではないが、少なくとも小生が知る限り、これまでの彼のキャリアの中でも、最高のパフォーマンスだったのではないかと思う。正直、若い頃の彼はアイドル臭がキツすぎて嫌いだったが、本作でようやく、彼の事が少しだけ好きになれた気がする。噂によるとしばらく俳優業を休むそうだが、復帰の暁には是非とも悪役、それも「シャイニング」ジャック・ニコルソンか、ハンニバルのような狂人を、演じていただきたい。

 その昔、一人の人間が持てる幸福は、両手で掬った水の量が限界であると、誰かから聞いた覚えがある。欲を持つ事それ自体は決して悪ではないが、究極的に射幸心を満たすものではない。際限のない欲望は、両手で川の水を全て汲み取ろうとするも同義、すなわち、結果的に本来持っていた幸福さえも逃してしまう事になりかねない。作中、ジョーダンが巨万の富を得てもなお、家族とその幸せを守りきれなかったのは、その象徴といえる。
 衣食足りて礼節を知ると言うが、仁義礼智信忠孝悌に欠く衣食が身につくと、人は巨人かギャングスターにでもなったつもりになり、自分に不可能はないと錯覚してしまうものなのかもしれない。まあ、金持ちになった事がないので実際のところは分からないし、この世のだいたいの問題はぶっちゃけ金で解決できてしまうのだが(エー)、つまり本作における最大の教訓は「真面目にコツコツ働け」という事に違いあるまい(ソウカ?)。

 でもやっぱり、金持ちにはなりてぇよなぁ。悪い事してまでとは思わんけども(笑)。


 おそらくは、登場人物の誰一人感情移入できず、人によっては吐き気を催すような場面の目白押し。加えて上記したとおり約3時間の長尺で、観終わった後はかなーりグッタリする事ウケアイ。しかし、エンターテイメントとして面白さと、盲目的に資本主義を崇拝する現代人に対するアイロニックなブラックユーモアに満ちたこういう映画こそ、是非スクリーンで観ていただきたいと、強く推しておく。ラリって階段を転げ落ちるディカプリオに、爆笑必至。


 ☆☆☆☆★−

 決して好きではないけど、褒めざるを得ないので。悔しい…、悔しすぎる!!でも…(以下略)。余談だけど「オレにこのペンを売れ」の一連もよかった。星4つマイナス!!