「夢売るふたり」感想(簡易版)
西川監督らしい、人間描写の上手さもさる事ながら、男の頭では到底辿り着けない「女性ならではの目線」を巧みに盛り込んだ脚本が実に秀逸。
阿部サダヲ氏の芝居のセンスはもちろん、(失礼ながら)お世辞にもイケメンとは程遠い彼を、ごく自然に、しかも安易なコメディに落とす事なくモテ男に仕立て上げる手腕はさすがの一言。
いわゆる、ガイアが囁いているようなキメキメのファッションでなく、決してお金持ちでもない冴えない中年が、ハンカチ一枚で女の心を奪う様は、モテるために必死に無駄な努力と勘違いを繰り返す世の野郎どもの滑稽を「女って結構こんなもんよ。アンタ達、全然ベクトルが違うわ」と嘲笑っているようであり、それでいながら、鑑賞後に不思議な痛快さすら残ったのは、偏にその姿と言葉が否応ない説得力を有してからに他ならないと察する。
夫に結婚詐欺の話を持ちかけ、共犯を重ねるうち、嫉妬か女性としての激情のせいか次第に壊れていく妻演じる、松たか子の怪演もまた、非常によい。
以前「告白」の感想で、「彼女は和製ニコール・キッドマンじゃない。和製ヒース・レジャーだ」と評したが、まさしくその名に恥じない、静かな、しかしいつ爆発するか分からない危うさを孕んだ女の内なる暴走を、見事に体現。
一昔までただただキレイなだけのお姉さんだったが、年と経験を重ねてきたためか、いい意味での「枯れた雰囲気」と、そこから生まれる独特の色気を、自然に醸し出せるようになってる点もグッド。夫婦演じる二人の才能あってこそ、この映画ははじめて成立するのだと、断じてしまいたい。
結婚詐欺の被害に遭う女達を演じる、田中麗奈、鈴木砂羽ら「不幸が似合う女優・日本代表」(笑)の競演も素晴らしく、笑福亭鶴瓶師匠をはじめとした他のキャスティングも絶妙なバランス。
冒頭で書いたとおり、女性目線がゆえに男からすれば「ん?」と首を傾げてしまう場面、理解しづらい箇所も見受けられ、すっきりしないラストも相俟って、正直観る人を選ぶ内容ではある。
とはいえ、「男ってこんな時こうだよね」「女って意外とこうするよね」と割り切れさえすれば、問題なく楽しめる作品であり、むしろ参考になる部分も多いと、個人的には思う。
まあぶっちゃけ、これを観て「結婚なんて絶対しねぇ」とより強く思ってしまったけども(笑)。
☆☆☆★★+++
星3つプラス3つ!!