「宇宙兄弟」感想
長年勤めていた自動車メーカーを退職し、無職となった主人公・六太(むった)が、幼い頃からの夢だった宇宙飛行士となった弟・日々人(ひびと)から届いた手紙をきっかけに、再び宇宙を目指すべく奮闘する。
例によって原作は未読。とはいえ、この手のマンガ原作モノにありがちな「エピソードの羅列」観もなく、非常に分かりやすく、観やすい仕上がり。
どの場面をどう継ぎ接ぎしたかは存知上げないが、一本の映画として矛盾なく、それでいて本格的な宇宙飛行士選考テスト等を扱いつつも、誰でも無理なく楽しめる内容だったと思われる。
役者陣の演技も素晴らしく、中でもやはり主人公・六太演じる小栗旬くんの存在感は圧巻。天然モジャパーマと秘められた能力はともかく、真っ直ぐで熱いハートを持った、しかしごく普通の男を体当たりで好演。
いつもの「カッコいい小栗旬」ではなく、かと言って単なる奇抜キャラでもない。彼の役者としての才能が窺い知れる、よい仕事ぶりだった。
これで何故映画監督としての才能はなかったのか(以下略)。
個人的に小生が気に入っているのは、後半の閉鎖環境・耐久テスト。実際の選考試験と同じ内容だという点もそうだが、あの一連のシーンそのものが、一つのシチュエーションドラマとして機能しているのが面白い。
完全に外世界から遮断され、一つのミスが文字どおり死に繋がる宇宙空間で、何を優先し、何を尊守、あるいは厳守しなければならないかを冷静に判断できるかどうかを見るためのモノ、だと察するが、登場人物の掘り下げや内面の描き方も丁寧で、ヘタな映画一本以上の見応えがあったと評しておきたい。
また、岡田将生くん演じる日々人が、兄にイタズラしようと思いっきりシェイクした缶ビールを渡したつもりが、間違えて自分が飲む分を渡してしまうカットも、なかなか上手い演出。
観察力に優れた兄の才能を認めつつ、どこか子供っぽい純粋さを残す日々人の人柄を見せると同時に、慎重さに欠ける彼の欠点をも、あの短期間に表現してみせている。
惜しむらくは、その日々人の弱点をもっとうまくストーリーに生かしていただきたかったのと、六太と一緒に選考テストを受けた人達のその後を、ちゃんとした形で観たかった。
原作の展開に間に合わなかったのか、はたまた、あえてボヤけた終わり方にして、あとはご想像に、という感じにしたかったのだろうか。確かに、あれから先を映像化しても、やや冗長になりそうな気もしなくはないが、どうもあのラストがベターとは思えなかった。
まあしかし、聞いた話によると、宇宙に人間を一人打ち上げるのに、1億円近い費用がかかるそうで、ために「ガンダム」のスペースコロニーのような居住空間を作ろうとすれば、それこそ天文学的な資金が必要なんだとか。
(余談だが、その点を踏まえると、実はスペースノイドと呼ばれる人々は棄民ではなく、コロニーを建設するために仕方なく宇宙に上げられ、そこに住まざるを得なかった労働者階級の人達が主だったのではないかと、この前読んだ本に書いてあった)
これから先、技術がより進歩すれば、もっと低コストで人や物資を宇宙に運べるようになり、いずれはスペースコロニーや、月面基地も実現するかもしれない。そう考えると、作中の堤真一さんのセリフではないが、実に夢のある話だ。
本作を観たチビッコや学生諸君の中に、ちょっとでも宇宙に興味を持った者、あるいはそういう仕事に就きたいと思う者が現れてくれれば、それは製作者にとって無上の喜びに違いあるまい。そういった意味でも、老若男女にオススメできる一本。
さて、いつも以上に簡単でつまらない文章を書き殴ったところで、小生の評価は…、
☆☆☆★★++
相も変わらずCMのネタバレは何とかならんのか、とか思いつつ、星3つプラスプラス!!
(違)