「テラフォーマーズ」感想
貴家悠原作、橘賢一作画。週刊ヤングジャンプにて連載中の、累計発行部数1600万部の人気コミックを、三池崇史監督、伊藤英明主演で実写映画化。テラフォーミング計画のために送り込んだ火星で、異常な進化を遂げたゴキブリと、昆虫の力を移植された者達の戦いを描くSFアクション。
2013年の「ガッチョメン」、2014年の「ルパン三世」、そして去年2015年の「進撃の巨人」と、何が楽しいのか、年に一度のペースで盛大にやからす日本映画界が、今年もまた超特大花火をぶち上げてしまった。
まず何より、原作の設定を映画用にシェイプした…というより、必要なモノから優先的に切り捨てたとしか思えない、カスの寄せ集めみたいな脚本がとにかく酷い。
ギャラの問題か、世界中から選りすぐられた戦士達が、それぞれの国の思惑を抱えつつ、時に協力し合い、時には騙し合いながら、火星探査とゴキブリ駆除を続けるという原作の持ち味を、全員日本人キャストに変更する事で完全に殺しにかかる大胆アレンジに加え、ペラくてありがちな陰謀サスペンス要素なんぞブッ込み、しかしやってる事は基本殴り合いだけの、横にも縦にも広がらない、悪い意味での超ミニマム感が、作品全体的によりチャチ臭くさせている。
ストーリー構成、及び演出も最悪で、いちいち必然性のない件、ただ間延びするだけのシーンが延々と続き、上映開始から10分過ぎた辺りから「ダルいなー、眠いなー、早く終わんねぇかなー。そういや今日のカープどうなったかなー」と、そればかり考えていた。
例えば冒頭、「ブレードランナー」丸パクリの東京で、主人公・小吉演じる伊藤英明と、奈々緒演じる武井咲が警察から逃げる場面と、色々あって火星に飛ばされ、テラフォーマーに遭遇するまで。驚くべきことに、たったこれだけのシーンにも関わらず、そこに至る半分以上がまったくのムダ、あるいは無意味というミラクルっぷり。
わざわざ火星のゴキブリの事や、昆虫の力を移植したバグズ手術の真価を秘密にするのに、果たして何の効果が?契約がどうたらこうたらなんてのも、普通にその場で無理やり眠らせて、起きたら既に宇宙船の中、船内メッセージで「お前らは極刑に値する罪人なんだよーん。でも超強くなれるバグズ手術っての施しといたから、それで火星に行って人間サイズに進化したゴキブリども皆殺しにしてくれたら、無罪放免な上報奨金もたんまりあげるんで、頑張ってねー。あ、注射の使い方はその辺にいる艦長か小池栄子にでも聞いてね。ちなみに命の保証はないし、拒否権もねぇから。嫌なら宇宙空間泳いで帰ってきな。じゃ、バイビー!」で良かったのでは。その方が圧倒的にスピーディー且つ、極限状態に置かれた彼らの悲壮感も観客に伝わったように思われるが、いかがだろうか。
最初からこんな具合なので、残りの展開は、推して知るべし。
登場人物の描き方も、いただけない。メンバーの心境、行動理念、または火星に飛ばされるまでの経緯といった掘り下げが、極端に下手なばかりか、場合によっては意味不明に思える言動もチラホラ。
再び冒頭の話に戻るなら、船内で突然小吉と殴り合いをおっぱじめたか思えば、今度は奈々緒に片言の英語でちょっかいを出す、キックボクサーの仁演じる山下智久くんをはじめ、クルー全員が、まったく無軌道に、わざとらしく動いているように感じられ、ものすごく作り物めいた、いかにも台本通りにしゃべってリアクションしてますよと言わんばかりの気持ち悪さを覚えた。
キャラクター紹介を兼ねていたつもりなのだろうが、あれこそ、突然テラフォーマーに襲われたところを、それぞれが個々の能力で撃退、多少の犠牲者も出しつつ、戦い方や仕草でどんなヤツかを表現していった方が、遥かにマシだったものを。メイクに時間と予算がかかるのを避けたとも考えられるが、そんな理由で客が満足できるだけの完成度を犠牲にするくらいなら、ハナから実写映画化なんて考えてはいけない。
賑やかしにもならないヤクザ二人と、何のために出てきたのかさっぱり分からないビッチ二人を含め、お互いがお互いを潰しあう、浮きまくったキャラクターバランスの悪さと、何のためにいたかも分からないヤツがほとんどというポジショニングの下手さ加減も、大きな大きなマイナスポイント。特に、連続殺人犯・手塚演じる滝藤賢一氏と、「仮面ライダー鎧武」の戦極凌馬そのまんまみたいな本多博士演じる小栗旬くんは、他のキャラ以上にただただウザく、面白くもなんともないパープリンにしか見えなかった。
ギャグと思しきシーンも、ことごとくスベリ倒し。頭おかしいヤツ=いいキャラではないと、何度言えば分かってくれるのか。冗談ではなく、バカな格好してバカな事を言うだけの自称お笑い芸人と同様、本当にその作品に対して必要がない限り、こういったキャラは今後日本国内で禁止してほしいと本気で思う。表現の自由?そんな戯言は、まともな表現ができるようになってから言え。
もう一つ付け加えるなら、本編の主人公たる小吉が、主人公としてまったく機能していない点。
最後まで生き残るとか、一番強いオオスズメバチの能力を有しているとか、一人だけ女連れとか、そんな表面的な事ではなく、走っている車に掴まる以外、中盤まで特に何もしていない彼の視点でなければ、本作を展開するにあたって、何かしらの不都合があっただろうか。まして、その女の首をへし折られて、「ナニスンダテメー!」としか言わないような野郎が。普通、その場で後先考えずに殴りかかるだろ。仮に、即返り討ちに遭うとしても、だ。
彼に限らず、主要人物の生い立ち、格闘技のバックボーン等もかなりあやふやで、時折入る回想シーンもテンポを悪くするだけ。その上で、いきなり山Pが「俺より強いヤツがいるなんて、許さねー」とか叫ばれても、そんなん知らんがなとしか言いようがない。
こう言っては何だが、製作者側に本作を面白い作品にしようという気概、別の言い方をすれば愛情がまったく感じられない。人気コミックを設定とあらすじだけ借りて、あとは人気俳優でも適当に出して、戦隊ヒーローの延長みたいなノリで撮っちゃえば、なーんにも考えてない学生連中が勝手に入って喜んでくれるんじゃね?みたいな軽率さが、そのままこの推敲の痕跡の欠片も感じられないプロットから、透けて見える。
逆に言えば、このふざけたプロットを、この程度に食い止められたのも三池監督の手腕と見る事もできるが、これからナントカ高校最強軍団と地球外生物がドツキ合う「クローズZERO:宇宙編」でも撮った方がマシ。少なくとも、同じ火星で一人取り残されてジャガイモ作ってる方が、圧倒的にスリリングで面白い。
ついでに言うなら、リアルファイトの最中に、いちいち決め顔とか、決めポーズとか、決め台詞とか、やっちゃダメ。ああいうのは、カッコよく見せるのが目的の特撮ヒーローだから許される行動であって、そんな文化知るはずのないテラフォーマーどもが、わざわざ取り囲んだまま空気読んで待ってくれるわけがない。
こんなザマでアクション大作を名乗るなど、毎日平均3時間睡眠で、チビッコ達のために頑張っているスーパー戦隊と仮面ライダー、そしてそのスタッフの方々に失礼だ。地球以上に、特撮を、なめるなよ。少しはよりよい作品作りのために、命、燃やして来い。
豪華人気俳優陣による、安い昆虫のコスプレ。小学生でもツッコみたくなる、不条理無理やり設定。結局何がやりたかったのか、何が表現したかったのかも分からんような、グッダグダのシナリオ。学生の演劇かってレベルの、悪い意味で漫画的で不自然な芝居とセリフ。観終わった後、脳内で「なぜ日本映画界は、同じ過ちを繰り返すのか…!」という誰かの心の叫びが、本作のナレーションを担当されている池田秀一さんの声で聞こえた気がした。
他にも、指摘したい点、苦言を呈したい点は山ほどあるが、さすがに疲れたんでこの辺でやめておく。比べるのも酷だが、アクションの迫力と説得力は、「ジュウオウジャー」にも及ばない。映像と演技は、全編合わせても「レヴェナント」の1フレームにも及ばない。シナリオの完成度と満足度に至っては、「ズートピア」の1カットにも遥か遠く及ばない。日本映画の挑戦、というより、日本映画界がいかに不勉強で恥知らずで堕落してるかを世に知らしめる、架刑のごとき一本と断ずる。
だからさ、何度も何度も何度も何度も何度も言ってるように、今さら中途半端にハリウッドの真似なんかしても、絶対に勝てないの。チャンバラ劇とか、武道とか、日本にしか撮れない独自のアクションがあるんだから、そっちを大事に磨いていくべきなんだって。ねぇ、マジで!!
☆☆★★★−
面白かったのは、小池栄子のツインテールとカマキリ拳法の構えだけ。星2つマイナス!!
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