「ブラック・スキャンダル」感想


 クレイジー・ハートスコット・クーパー監督パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズジョニー・デップ主演ディック・レイアジェラード・オニール「Black Mass: The True Story of an Unholy Alliance Between the FBI and the Irish Mob」を原作に、30年に渡ってFBIに情報を提供し続け、その裏で数々の犯罪に携わってきた犯罪組織のリーダー「ホワイティ・バルジャー」の半生を描くノンフィクション。

 ここ数年、映画に出演する度にその奇抜なメイクと衣装ばかりが注目され、世間からはすっかり「ハリウッドのコスプレおじさん」と認知されてしまった観のあるジョニデだが、本作でようやく、本来の名優っぷりを発揮。
 実在の犯罪組織のリーダーを演じるにあたり、頭髪を薄くし、目の間隔を寄せるお得意の特殊メイクで、本人そっくりに変身してみせるこだわりっぷりはもちろん、記録映像や当時の資料を入念に調べ上げ、立ち振る舞いから行動理念まで、ホワイティー・バルジャーという人物の内面までも完全に再現しようと試みたというから、まったく頭が下がる。

 その甲斐あって、わずかなミスも裏切りも見逃さず、歯向かう者はもれなく皆殺し、情け容赦のない暴力と狡猾な知性で周囲を服従させ、ボストンの首領として君臨する最凶最悪の犯罪者を、見事に体現。画面に登場するだけで場が凍り付き、ちょっとした談笑の最中でさえ、いつどのタイミングで文字通りの引鉄が爆発するか分からない緊張感と恐怖を纏うその姿は、まさしく本作の象徴ともいうべき圧倒的な存在感。

 愛する息子を失い、我を忘れて暴れまわるなど、人間的な部分を垣間見せつつ、それさえも内側に宿した悪の根源を、さらに肥大化させるきっかけにし、組織の構成員はおろか、彼等を利用するつもりが、いつの間にかその闇に飲み込まれ、自らも悪に染まっていくFBI捜査官達、周囲の人々を巻き込みながら、徐々に、しかし加速度的に、誰にも制御できないほどの暴走モンスターへと成長、変貌していく様を、見事に表現してみせている。

 正直、実話がベースだけに、物語そのものは弱く、上記したジョニデの好演と、脇を固める俳優陣の巧みなアシストだけで持っているような内容。人によっては、半分も観ないうちに、スマホを弄り出すか、寝落ちしてしまうかもしれない(前者の場合は殴るけど)。
 とはいえ、下手に脚色され、時には最悪の犯罪者を必要以上に美化した浅いエンターテイメント性よりも、悪は悪として、また罪は罪として、ありのままに演じ、フィルムに残したこの潔さを、個人的には高く評価したい。
(ちなみに、ケビン・ベーコン演じる捜査官だけは、実在しない人物なんだとか)

 ネタバレもヘッタクレもないので書いてしまうが、後半、ある人物の登場を機に、バルジャーを含む関係者全員追い詰められ、結果的に全てを失う。人は「利」ではなく「理」に従う、天網恢恢疎にして漏らさずとはよく言ったものだが、欲に弱いのもまた人間の性で。こうした恥ずべき史実を娯楽作として楽しみつつ、同じ過ちを繰り返さないよう心掛ける事こそ、本作の意義というもののような気がする。多分。

 余談。前半、ジョニデが仲間とバーで飲んでる場面で、そのうちの一人が舐め回した汚い指で、みんなで食べるナッツを弄ぶのに軽くキレるシーンがあるが、あの気持ち、ものすごい分かる(笑)。鍋とか、みんなで食べるモノに何も考えずに自分の箸突っ込むヤツとか、心の底からしばきたい。
 ああいう無神経で不潔なヤツとは、絶対に一緒に飯食いたくないし、飲みに行くなんてもってのほか。殺しはしないまでも、途中で作中のジョニデばりにブチギレて大説教する自信ある(ダメジャン)。つーか、何度かした。


 ハイ、何のこっちゃ分からんけども、今回はこの辺で。


 ☆☆☆★★

 そういや、最後にジョニデの素顔見たのっていつだっけ?星3つ!!