「ザ・ウォーク」感想
大道芸人フィリップ・プティのノンフィクション「マン・オン・ワイヤー」原作。1974年8月7日のニューヨーク、ワールドトレードセンターの二つのビルの間にかけたワイヤーで綱渡りを披露した男の実話を、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのロバート・ゼメキス監督、「ダークナイト ライジング」のジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演で映画化。
実話がベースなだけに、ストーリー構造そのものは至ってシンプル。綱渡りに魅せられた大道芸人フィリップが、当時建設途中だったツインタワーと出会い、仲間とともに一世一代のステージを披露するまでを、ジョゼフ演じるフィリップ本人による回想(ナレーション)で観せていくという構図で、クライマックスの綱渡りシーンに収束させつつも、そこに至るまでの困難、あるいはメンバーとの衝突を丁寧に描き、この狂気じみた計画に、各段の人間臭さをもたらせている。
監督お得意のCG、特殊効果もまた秀逸で、そびえる二つのタワーの壮大な姿や、その屋上から見下ろす、底知れぬ闇を思わせる遥か彼方の地上の景色等、視覚面で物語を相乗。ワイヤーが揺れるたびに股間がキューーっとなるような、地上約411m、生死ギリギリの臨場感と緊張を、見事にフィルムに収めていると感じられた。
また、この違法で無謀、命知らずな彼らの行動を、常識やルールに囚われない自由な芸術表現と、極端に英雄視するでなく、かと言ってただの大馬鹿野郎どもと切り捨てもせず、あくまで客観的な立場から、彼等、特に首謀者であるフィリップの異常性、あるいは恐怖と興奮からか、発狂にも似た精神状態に陥る様子を映し出す事で、観客にこの行動の是非を委ねているようにも見受けられた。
言うならば、単なる丸投げではなく、彼らの犯した罪、クレイジーな部分を晒し、認めた上で、それでもこれを芸術表現と呼ぶかどうかは、あなた方個人個人にお任せします、といった具合。ために、そこを料簡できない人にとっては、まさしくただのキ〇ガイどもの戯れにしか見えないのかもしれないが、個人的な見解を述べるなら、確かに法を犯すのは感心しないものの、こういうバカは割と好きだ(笑)。
かの名作「キング・オブ・コメディ」(制服泥棒じゃない方の)の作中、ロバート・デ・ニーロ演じる主人公が観客に「どん底で終わるより、一夜の王でありたい」と語りかけるシーンがある。たとえ、それが一体何になると言われても、人から後ろ指をさされ、嘲笑されようとも、それまで積み上げてきた全てと、残りの人生を引き換えてでも、この一瞬に賭けたいと思えるモノに出逢えるのは、もしかしたらものすごく幸運な事なのかもしれない。
この前人未踏の綱渡りに挑む、またはその一端を担うという彼らの行為は、たった一夜でも王になるための、そして、人生をただどん底で終わらせないための挑戦だったように思えてならない。ただの自己満足、エゴ、目立ちたがり精神と、罵倒しようと思えばいくらでもできるが、程度はともかく、パフォーマーとは本来、そういうものではないだろうか。
さすがにこれを真似ようなんて頓馬はそうそういないだろうが、やるなら誰も手を付けてなく、誰にもできない、且つ、見た人に驚嘆と感動を与える方法でと、釘を刺しておく。エンターテイメント作品として無駄のない、しかし、その本質を鋭く良作。
☆☆☆★★+++
中でも一番の見所は、ベン・キングスレー演じる綱渡りの師匠・オーマンコウスキーさんの熱演。ありがとう、オーマンコウスキーさん!!(言いたいだけ)星3つプラス3つ!!
(オイコラ)
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