「台風のノルダ」感想


 2011年に新進気鋭のクリエイター達によって設立、「フミコの告白」で知られるスタジオ・コロリドの劇場最新作。離島の中学校を舞台に、台風とともにやってきた謎の少女と、彼女を救うべく奮闘する少年の姿を描く。

 おおよそ45分という、今日日OVAのイベント上映並の短尺にも関わらず、まさかの2本立て。これにはいささか面食らったものの、まだ経験の浅い新規スタジオからすれば、いきなり2時間前後の長編を作るより、20分前後のショートフィルムで少しずつ力を付けていく方が、何かとやり易いのかもしれない。

 さておき、一本目陽なたのアオシグレ

 どうやらこの作品、約2年前に別のショートフィルムとともに上映され、好評を得たらしい。内容としては、絵が得意で内気な男の子と、クラスで一番人気の女の子との交流と別れを、妄想とイマジネーションを交えながら描くという、実にファンタジックな物語で、イキイキと泣いたり笑ったりはしゃいだりする二人の動きはもちろん、絵本から飛び出したような可愛らしくカラフルな世界観が好印象。

 描きたい事がしっかりと決まっているためか、基本的にムダがなく、スピッツの歌う劇中歌とも相俟って、非常に完成された仕上がりと評したい。

 作中、飛んでいく看板にノーパン喫茶と書いてあったのには、さすがに遊びすぎだと思ったものの(笑)、これ一つで充分に金の取れる作品と言える。


 続いて、台風のノルダ

 長年ジブリで、数多くの作品にアニメーターとして参加していた新井陽次郎監督(ちなみに平成生まれらしい)だけあって、作画の完成度はなかなかのもの。一本目で監督を務めた石田祐康氏がキャラクターデザイン・作画監督を担当という事もあり、負けず劣らずキャラクターの表情や、走る姿の描写も素晴らしく、特にタイトルにもなっている台風の雲が流れる様と、クライマックス、主人公の動きをキャメラが追うように展開されるワンカット背景には、陳腐な表現だが感動すら覚えた。

 ただそれだけに、肝心の脚本、そして演出面が少々弱く、内容が薄く感じられたのは、非常に痛いところ。尺的に、やれる事が限られているのは分かるとしても、ボーイ・ミーツ・ガールと少年二人の友情という二つのテーマを内包しようとしながら、実質どちらも中途半端になってしまった観は否めない。
 結局あの子は、どうして学校の制服を着ていたのか(来た時に裸だったから盗んだとか?)、一体誰に操られていたのか、最後はどこに帰って行ったのか等の疑問も残り、そもそも、主人公の少年がどうしてああまでして彼女を助けようとしていたのかも、動機付けが弱い。

 野球を辞めた理由にしても、釈然としない印象を受け、物語との噛み合わせもぶっちゃけ薄い。どうせなら、最初から二人で彼女を見つけ、口には出さないながらお互い彼女に一目惚れしてしまった、ぐらいのスタートでもよかったように思える。

 やたらめったら詰め込めばいいというモノではなく、かといってガバガバもよろしくない。大事なのは、客がそれを納得できるかであって、その辺が本作の反省点であり、同時に今後の課題になるでは?と、勝手な老婆心を呈してみる。


 とはいえ、こうした若いクリエイターのための発表の場というのは、次世代を担う者達にとって、そして我々映画ファンにとっても大変喜ばしい事である。前々から言っているように、どこかの大手シネコンが協力し、3ヶ月に一回、あるいは半年に一回のペースで、実写・アニメ問わず、これぐらいの短尺作品を3本から4本まとめて上映する形式を、確立してはどうだろうか。
 人材不足が叫ばれて久しいこの数年、そろそろ新しい才能のための先行投資を、真剣に考えるべきなのでは?


 そんなわけで、今回はこの辺で。

 ☆☆☆★★

 次は1時間半ぐらいのを是非。もちろん、ちゃんとした脚本込みで(エー)、星3つ!!