「シンデレラ(2015年)」感想


 世界でもっとも有名な童話の一つ「シンデレラ」を、マイティ・ソーケネス・ブラナー監督ダウントン・アビー 〜貴族とメイドと相続人〜」リリー・ジェームス主演で実写映画化。

 グリム兄弟ジャンバッティスタ・バジーが執筆したものの他に、紀元前1世紀のギリシャにもその雛形と思しき物語が記録されていたりと、実に様々なバリエーションが存在する「シンデレラ」だが、本作はシャルル・ペローの童話を原作とした、1950年公開のアニメ作品の実写化との事。
 ちなみに他のバージョンには、靴がガラスではなく銀と金だったり、王子と結婚する事になったシンデレラに、掌返して媚び諂う姉二人の目ん玉を、鳩がくり貫いて失明させたり、継母の首を衣装箱で挟んでへし折ったりと、なかなかワイルド&バイオレンスなものもあるらしい。まあそれを言ったら、桃太郎だって初期のバージョンでは、川で拾ってきた桃を食べて若返ったじいさんとばあさんが、急にムラムラしてきてファイナルフュージョn(以下略)。

 さておき。全体としては、我々が子供の頃から知っている「シンデレラ」そのまんま。そこら辺の児童図書館に必ず置いてあるだろう絵本を読めば、だいたいのネタバレが書いてあるぐらいの、超ド直球な内容。
 こんな超メジャーな古典作品を、今さら実写で撮る必要性があるのかと、首を傾げる人も少なくないと察するが、逆に考えれば、後世に伝え残す意味もこめて、一度現代の最先端技術で作っておこうという制作側の思惑も汲み取れる。

 ために、正直なところ驚くような展開はなく、レディ・ガガのご機嫌なナンバーに合わせて、貴族も平民も入り乱れてのクレイジーダンス!!なんてサムいアレンジも、当然皆無。悪く言えば、旧態依然とした童話を、旧態依然としたまま撮っただけの映画。しかしその分、作りそのものは非常に丁寧で、老若男女分かりやすい、チビッコ達にも安心して観せられる仕上がりになっていたのは、さすが天下のディズニーで好印象。

 その上で、原作を大きく壊さないよう新たな解釈、別の表現をするなら主要登場人物それぞれに独自の視点を与える事で、物語により深みを齎している点はグッド。例えば、シンデレラをいじめ倒すケイト・ブランシェット演じる継母は、ただの意地悪BBAというだけでなく、人の富や幸福、あるいは美貌と若さを妬み蔑み、自分の不幸を他人に擦り付ける事でしか喜びを得られない哀れで惨めな存在として、見事に機能。
 作中、何度か本気でぶん殴りたくなるほど憎憎しい態度と狂気じみた高笑いが、シンデレラの優しい心と美しさをさらに際立たせると同時に、図らずして幸せを全て奪われる比較対象となっている点も面白い。
 ブルージャスミンで観せたキレた芝居も素晴らしかったが、今回もまた、彼女の女優としてのポテンシャルの高さを見せつけられた格好と評する(なお、別にケイト自身が意地悪BBAという意味ではありません。悪しからず)。

 聞けば、元遠藤嫁こと千秋は、女は男の地位や富をアテにしてはいけない、自分の幸せは自分の手で掴み取るものだ、という信念の下、娘にこういったプリンセスストーリーを一切見せない主義だという。確かに、作中でシンデレラが何かしたかを聞かれれば、ネズミを餌付けしたり、鹿を逃がしたり、婆さんにミルクを恵んだりしてただけで、特に能動的に何かしたという描写はないように思われる。
 まあ、それも一理ある見解ではあるし、超他力本願でご都合的に何とか上手く行っちゃった小娘の物語とも、言えなくはない。しかしここはあえて穿った見方を捨てて、人と動物を慈しみ、常に優しさを忘れなければ、自然と幸せは向こうから訪れる、誰かが救いの手を差し伸べてくれると、受け取っておこう。ウン。

 この世の誰よりも穿ってモノを観てる小生が言っても、何の説得力もない気がするが、とはいえ一番のツッコミどころは、王子様と結婚して幸せを掴んだ本作の同時上映が、どこぞのクソ王子を蹴飛ばして姉妹仲良く暮らしていく事を選んだ「アナ雪」の短編t(ソウイウトコロヲイッテンダヨ)。


 観客のほとんどは女性ばっかりで、野郎だけでの鑑賞は相当に精神を蝕まれるけども、想像以上に出来はいいので、興味がおありの人は是非。


 ☆☆☆★★+++

 あと笑ったのが、クライマックスでシンデレラ見つけた後の王子の股間がめっさモッコr(以下略)、あれはお城に帰ってすぐファイナルフュージョn(モウイイダマレ)、星3つプラス3つ!!