「永遠の0」感想


 発行部数累計300万部を越えるベストセラーにして、百田尚樹のデビュー小説を、ALWAYS 三丁目の夕日山崎貴監督天地明察岡田准一主演で映画化。太平洋戦争時、周囲から「臆病者」の謗りを受けながら、愛する妻と子の元へ帰るため、何よりも生きる事に執着したゼロ戦乗りを姿を描く。

 ツイート上では絶賛の声多数、中には「本年度ナンバーワンの出来」と評する人も少なくない本作。が、小生の感覚が死んでいるのか、はたまた観るべきところが他と違うのか、正直さっぱり引っかかる部分のない、非常に退屈な内容だった。

 確かに、愛国精神の名の下に死ぬ事こそ本懐とされた、軍国主義の真っ只中において、愛する妻のため子のために、敵味方問わず何よりも人の命を優先しようと務めたその生き様は感動的であり、平和を謳歌するこの時代だからこそ、その思想を貫く難しさは理解できるつもりである。
 また、多分にテンプレじみた、ガンダムか何かで100回ぐらい観たようなストーリー展開は、分かりやすい定番物として解釈し、一部の「歴史の捏造」「ゼロ戦の不当な美化にして神格化」「『赤城』のCGが酷い」「ゼロ戦はあんな色じゃねぇよバーカ」等の見解についても、小生自身がその辺の事情に明るくない点も含め、あえて目を瞑るものとしよう。

 では、何がいけなかったか。それはひとえに、登場人物のキャラクターが押し並べて薄っぺらく、バックボーンがまったく見えてこなかった点にある。

 例えば、岡田准一くん演じる主人公・宮部久蔵。操縦士として一級の腕を持ち、小隊長を任されるほどの人物が、いかにして反軍国主義ともいえる思想にたどり着いたのか。愛する妻と子のため、と言えば簡単だが、何も彼一人が妻子持ちなわけはあるまい。まあ、あんな可愛い嫁なら、すぐにでも飛んで帰りたくなる気持ちは分からなくはないとはいえ、それだけでは納得力に欠ける。

 その嫁に関しても、どこでどうやって出逢い、なぜあそこまで深く愛するに至ったのか、やはり説明不足。無論、未来永劫結婚する事などない小生には到底理解できない心境等があったにせよ、せめてお見合いか恋愛結婚か、馴れ初めぐらい語ってほしかったところ。
 彼に限らず、登場人物ほぼ全員そんな調子なので、まるで「お前、ここに立っとけ。お前はこっち」と、ストーリーを動かすため、適当なキャラを適当に配置したような安直さが見受けられてしまう。

 何も、各人の誕生から今日に至るまでの経緯まで全て作中に晒せ、と言っているのではない。上記の件も含め、宮部は嫁のどこに惹かれ、どうして結婚しようと思ったのか。家は元々何をする家系なんだ。濱田岳演じる井崎のご両親と兄弟は、彼をどんな面持ちで戦地に送り出したのか。田中泯演じる景浦は、軍に入る前からヤクザだったのか。そうでないなら、なぜヤクザになったのか。彼らの好物は何だ。趣味は。利き腕は。好きな女のタイプは。そういった事を多少なりとも匂わせる、いわば彼らの生活臭のようなモノが、本作には圧倒的に欠落している。

 仮に誰よりも死を恐れ、乱戦時には一目散に逃げる宮部が、上官から拳銃を突きつけられて「もし次の戦闘で逃げたら、即座に射殺する」と脅された時、彼はどういう行動にでるだろうか。その結果が特攻?明らかに違う。物凄く底意地の悪い言い方をすると、どうも本作は最初にストーリーありき、人物はあとから沿って動くべく置いていっている、そんな印象をアリアリと受けた。

 これは特別な人々の物語ではなく、作中の三浦春馬のセリフよろしく、あの戦争を体験した人と、現在に生きる人々を繋ぐ、当たり前の日常に光を当てる物語なんだよ、と好意的にとらえる人もいると察する。しかし残念な事に、物語とは=人間が何を考え、何をするかであり、逆から言えば、そこに意思を持って動く「人間」がいない限り、決して成立するモノはない。ゆえに断じて、ただの泣けるエピソードの羅列などではない。

 主演の岡田くん井上真央をはじめ、多くの実力派俳優陣の仕事により、一見ものすごく熱い血の通った人間ドラマのようでありながら、その実、中身の伴わない御涙頂戴のナンチャッテ戦争絵巻。本作が遺作となった故・夏八木勲にはたいへん申し訳ないが、一映画ファンとしてこれを褒めるわけにはいかない。

 それにしても、以前同著者の「ボックス!」を観た時も思ったが、この人は文章力と物語を書く才能はあるのかもしれないが、人間を書くのはどうにも上手くないらしい。著作物を読んだ事がないので実際のところはよく知らないが、映像化するならその辺をしっかり補填・補完できる人物に任せるべきではないかと、勝手に苦言を呈しておく。


 さて、随分ボロクソ書いてしまったんで、軽くフォローしておこう。やはり何と言っても、井上真央の演技力は素晴らしい。あの若さで、戦後のくたびれた未亡人をあそこまで完璧に演じられる女優は、綾瀬はるかを除けば他にいまいて。
 加えて、着物の着こなしと立ち振る舞いの見事さ。「武士の献立」上戸彩も悪くなかったものの、時代劇の所作ができていなかった点が少々マイナス。その点、彼女の場合は文句のつけどころなし。謝罪の王様でも書いたが、与えられた役割を十全以上にこなせる彼女の才能を、日本映画界はもっと大事にすべきである。
 次回作の「白ゆき姫殺人事件」、原作も面白かったんで今から楽しみ。


 ☆☆☆★★−−

 で、彼は結局なんで特攻したん?小生の勘が悪すぎるのか?星3つマイナスマイナス!!


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