「R100」感想


 松本人志監督作品第4弾は、謎のSMクラブに入会したその日から、突如として現れる女王様に翻弄され、徐々に日常まで侵食されていく男の姿を描く、未体験リアルファンタジーエンターテインメント。

 結論から書くと、非常にクソつまらない。設定はメチャクチャ、ストーリーはグチャグチャ、登場人物の行動理念、前後の展開とその必然性、全てにおいてナンセンス且つ支離滅裂。普通なら観る価値なしの烙印も免れない、商業ベースに乗っている事自体不思議な出来。
 が、それもそのはず。タイトルからも分かるように、これは「R100=100歳以上指定」、つまり常人の理解を越えた笑いに対する仮説であり、同時に作中の言葉を借りるなら「Mを突き詰めるとSになる」という物事の表裏一体、いわば「つまらなさを突き詰めた先の面白さ」の映像化を目指した作品であると、小生は考える。

 
 ある意味究極の自虐ネタとも取れるが、これまでにも新しい形の笑いを世に送り出して来た「黄金パターンを生み出す天才」松本人志氏の事、本作もまた板尾の嫁「方正ガキの使い卒業」のように、それらを何度も観せる事で笑いへと昇華させていく、壮大な刷り込みの一つであると位置づけていると察する。
 かつて任天堂最大の失敗作と評されたバーチャルボーイが、3DSの登場によって「今にしてみれば、発想があまりに早すぎた」と言われるように、おそらく監督自身も、これが今現在すぐに評価されるのは考えておらず、それこそ100年ぐらい経ってから初めて「ああ、こういうか」と言われる事を想定して撮ったのではと、勝手に推測してみる。

 まあとはいえ、今現在の感覚からすれば、クソつまらない事には何ら変わりなく、実際、同じ回で観ていた人の多くが、あまりにドギツいシーンの連続に途中退席、気がつけば上映前と上映後で観客が半分以下になっているという、世にも珍しい珍現象を目撃する格好となった。パンツ一丁で亀甲縛りされ、鞭で叩かれ唾をかけられる主人公演じる大森南朋をはじめ、豪華出演陣の熱演(怪演?)には頭が下がるものの、これを面白いと思えるほど訓練された人は、そんなに多くないだろう。


 最近では冠番組が次々に終了し、才能が枯渇したのではと揶揄される監督だが、私見ながら枯渇したのではなく、氏の感覚が突き抜けすぎて、一般人がついて行けない地点にまで達したのではと邪推している。事実、テレビやDVD(ビデオ)といった各メディアでしか作れない笑いを提唱し、それを定着させてきたのは氏の功績であり、余談を言えば、大した芸もないのに変な格好して変なことすれば面白いと勘違いした芸人もどきを大量発生させたという意味では、功罪でもある。
 そんな松本氏からすれば、映画もまた同様に新しい舞台装置、あるいは上記した刷り込みの場と捉えているのかもしれないが、正直これだけ映像メディアの普及した今なお、スクリーンで観る事を前提とした映画というジャンルは、氏のセンスと上手くかみ合っていないように思える。もちろん、これまでもコメディやコントの映画はたくさんあったがそういう事ではなく、例えるなら3分5分の短時間で戦うボクシングやMMAの技術が、場合によっては60分フルタイムで戦い、しかも観客を魅了しなければならないプロレスのリングでそのまま使うには難しいのに似ている気がする(どちらが上とか下とかではなく)。

 ドラマツルギーに則り、当たり前の物語として組み立てつつ、氏独特の笑いを加えていく、という具合にできればよいのだが、きっとそんな映画ならオレが撮らんでもええやんけ、と仰るに違いない。本作も、氏からすれば実験の一つにすぎないのかもしれないが、そろそろ名前だけで映画を撮るのも限界のはず。イヤでも一度、誰でも理解できる程度にまでレベルを落とし、単純に「面白くて笑える」作品を担保として撮っておく必要があるのではないかと、勝手な老婆心を呈しておく。
 


 ☆☆★★★

 あとどうでもいいけど、ボンデージ着た佐藤江梨子にならちょっと蹴られてもいいかも(笑)。それ以外のヤツが蹴ってきたらアキレス腱叩っ斬る。星2つ!!


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