「モンスターズ・ユニバーシティ」感想


 2001年公開モンスターズ・インクの続編。子供の頃から誰よりもすごい怖がらせ屋になる事を夢見てきたマイクは、その夢を叶えるべくモンスターの大学モンスターズ・ユニバーシティに入学。小さく迫力に欠ける外見のコンプレックスを人一倍の努力で克服しようと奮闘するが…。

 主人公のマイクサリーをはじめ、前作からのキャラクターも多数出演。「〜インク」の冒頭に繋がるまでのいわゆる前日譚ながら、内容は日本のスポ根マンガのフォーマットそのもの。
 怖がらせ屋として致命的弱点を抱えながら、誰にも負けない夢への情熱を武器に突き進むマイクと、自らの家柄と才能を過信するも、徐々にマイクの頑張りと自分のふがいなさに打ちのめされ、奮起するサリー。まったく正反対の二人が当初衝突し合いながら、少しずつお互いを認め、親友へなっていく過程を軸にしつつ、落ちこぼれ達とともに学園一のエリートクラブを打ち破るべく団結、邁進していく様子は、まさしく80年代ジャンプ黄金期の3大原則「努力・友情・勝利」を彷彿をさせる。
 この台本をそっくりそのままサッカーか野球にコンバートしてもイケるんじゃないかと思うぐらい、正直かなりベタなストーリー展開だが、しっかりとモンスターならではの要素も取り入れつつ、ユーモアと人間(?)ドラマも忘れない手堅さは、この手の物語が普遍である事と同時に、カートゥーンの基礎・基本が完璧に出来ている証明であると察する。

 また、前作を鑑賞していれば、その後マイクサリーがどうなったかは明白だとしても、本来なら「諦めなければ、夢が絶対に叶う!」路線で押し切ってしまうところを、結果的に努力だけでは越えられない壁、自身の限界を容赦なく描き切っている点も高く評価したい。
 鑑賞対象となるチビッコ達には実に残酷な話しであり、人によっては「そうじゃないだろ!」と熱く反論したくなるかもしれない。しかし、ここで勘違いしてはいけないのは、彼はそこに至るまで誰よりも努力し、誰よりも強く願い、そして誰よりも強いプライドを掲げてそれに臨んでいた事。そんな彼だからこそ、自分の限界を思い知り、一時的に目標を見失いながらも、次の一歩へと胸を張って進めたに違いない。ある意味、前日譚という特性をフルに使った表現と言えるが、彼のその勇気と行動力、そしていい意味でのポジティブな「鈍感力」には尊敬すら覚える。
 
 夢を追いかけ、叶える事は素晴らしい事だが、それだけが人生ではない。死に物狂いで努力し続け、誰より頑張ったのなら、たとえ夢は叶わなくとも必ず新しい道が開ける。同じ経験を持つ我が身として、未来ある子供達にこれ以上の教訓はないと断じたい。

 もっとも個人的な見解としては、なんでも我流で見当違いな努力をしても何の意味もなく、バカの一つ覚えになるから気をつけてね、とも思う(外道)。それは例えば、ピッチングにせいバッティングにせい間違ったフォームを何千、何万回練習しても野球がちっとも上手くならないのと同じ。ちゃんと正しい努力をしないと、単なる時間のムダに終わるんで、その意味でも知識はものすごく大事。「バキ」みたいに科学的根拠を無視してトレーニングしても、自分が壊れるだけなんで要注意ね。

 さておき。
 一つだけ不満点を挙げるとするなら、人間の子供が有害であるという設定がどこから来たのか、結局解明されなかった点。前作を観る限り、あの悪徳社長のブラフでもなさそうだし、CDAの存在もかなーり謎のまま。物語以前に、子供に触ってどうにかなったモンスターがいるのだろうか。もし本作の続編が制作されるなら、その辺を中心にやっていただきたい。その後、マイクと彼女が結婚できたかも気になるし(笑)。
  

 とはいえ、全体的に非常に分かりやすく、しかし大人にもガツンと来るハードさも兼ね備え、真に「児童向けながら大人の鑑賞に堪えうる」、まさに世界のピクサーここにありの傑作。同時上映の短編「ブルー・アンブレラ」も可愛くてすごく好き。


 ☆☆☆☆★

 爆問・田中と石塚英彦氏の吹き替えもグッド、星4つ!!