「最強のふたり」感想


 エリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ監督・脚本。実話を基に、全身麻痺の富豪と、彼の介護人となった貧民層の黒人青年との交流と友情を描いたヒューマンストーリー。

 「感動作」「泣けるエピソードのパッチワーク」が常識化してしまった映画業界に、一石を投じる改心の良作。見た目いかにもな雰囲気を、冒頭のカーチェイス、そしてアースウィンド&ファイアーのご機嫌なダンスナンバーで払拭する演出もさることながら、主人公二人の心境や気持ちの変化を丁寧に汲み取り、時にユーモアを交えつつも美しい物語へと昇華させている点は、非常に好感が持ててグッド。

 実話ベースとはいえ、明らかに過剰な創作をブッ込み、台無しにしてしまうような過ちは侵さず、また中途半端な奇跡で無理矢理ハッピーエンドに落とす事もなく、しかしエンターテイメントとして骨組みはしっかりと残し、最後まで観客を飽きさせない作りも高ポイント。まったく私見ながら、フランス映画らしいどこかアンニュイな空気を纏いつつ、ムダを省いて大事な部分だけを浮かび上がらせる、日本的な引き算の美学をも感じた。

 さて、一見して本作は、身体障害者と健常者がいかにして付き合うかを描いているようで、実はそれを含めた、大きなテーマが隠されている事に気づく。
 簡単に言うと、本作の二人の立場はまったくの正反対。片や、首から下が動かせないが、多くの富と教養を持つ初老の大富豪。片や、健康な体を持ちながら、学も資産も定職もない前科付きの移民青年。本来なら、接点を持つ事自体ほぼありえない関係である。
 しかし、そんな貧しい青年を富豪は受け入れ、自身の世話役という仕事を与える事によって、少しずつ人間として再生させている。教養や社会のルールをそれとなく教え、自分の足で立って歩く術と勇気を授けている。作中の視点では、主に青年の言動が富豪の背中を押し、まだ見ぬ世界を教えているように見えて、実はお互いが認め合い、ともに影響され合っている相乗の関係なのだ。
 もちろん、青年の歯に衣着せぬ物言いと、他から見ればKYとしか映らない行動が、偶発的に功を為したとも言えるが、それ以上に、普通なら疎まれるであろう彼のような人間を迎え入れ、貧富や育ち、世代や肌の色も越えて対等に向き合ったからこその結果だと、断言できる。つまり本作は、真に人間同士が心を通わせるにはどうするべきなのかを、気難しい車イス生活者と陽気な黒人青年の姿を通して世に訴えたかったのではないかと、勝手に想像するが、いかがだろうか。

 もしかしたら、本作を「不謹慎だ!」と怒る人もいるかもしれないし、たまたま上手くいっただけのご都合主義映画だと感じる人もいるだろう。しかし、お互いの至らない部分は指摘し合いつつ、どうする事の出来ない部分は個性と受け入れ、場合によっては武器に変えるぐらいの胆力を世間の人がほんの少し持てれば、世界は今より優しくなると信じたい。本作はその一つの具体であり、かつて北野武氏が語った「いつか健常者と身体障害者が『お前、頭悪いもんな』『お前は手足悪いもんな』なんて言い合える社会になるといいね」の、貴重な成功例であると言える。
(ちなみに、この場合の「武器」とは、オレは可哀そうなヤツだからお前ら同情しろ優遇しろ金よこせ、という意味ではない。念のため)


 ところで本作、聞けばハリウッドでリメイクが決定しているらしい。正直やめときゃいいのにとは思うのだが、個人的に富豪役にはアル・パチーノ、青年役にはクリス・オドネル「セント・オブ・ウーマン」コンビを勝手に推しておく(実際の彼は、黒人ではないそうなので)。
 

 ☆☆☆☆★

 そういえば黒人の彼、「ミックマック」に言語ヲタクの役で出てたんだね。全然気づかんかった(笑)。星4つ!! 


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