「ダークナイトライジング」感想

　クリストファー・ノーラン監督版「バットマン」第三弾にして、完結編。前作から8年、平和を取り戻したはずのゴッサムシティに再び訪れる新たな脅威を相手に、ブルース・ウェイン＝バットマン最後の戦いが始まる。

　既に限界を越えた身体で復帰するも、強敵ベインの前に完全敗北を喫し、さらに持てる財産と装備、もっとも信頼する人物をも失ったバットマンが、文字通りどん底から這い上がり、ヒーローから伝説へと昇華する様を、ノーラン監督お得意の叙情的美しさ溢れる映像で表現。
　ゲイリー・オールドマン演じるゴードン警部に、マイケル・ケイン演じる執事のアルフレッド、そしてジョゼフ・ゴードン＝レヴィット演じる気になるルーキー・ジョン・ブレイク等主要登場人物はもちろん、今まで以上にゴッサムシティの住人そのものにスポットを当てた壮大な群像劇の様相を呈しつつ、それと相乗する形でブルース・ウェイン個人の内なる苦悩、恐怖、あるいは不屈の闘志をより強くフォーカスさせた脚本力は、ただただお見事という他ない。

　今作のヴィラン（悪役）であるベインの存在もなかなか面白い。知性、戦闘力、行動力ともにバットマンを圧倒する、最強最悪の敵であると同時に、理性的に破壊を行い、ささやかな希望も完全に打ち砕きながら、ゴッサムに恐怖と暴力の革命を促す扇動者にして先導者として君臨。
　闇に潜み、孤独に戦ってきたバットマンが、長年求めてきたゴッサムの真の目覚めを、まったく真逆のベクトルで達成せんとする、いわば相反する「もう一人のダークナイト」ともいうべき立ち位置で、ラストを飾るにこれほど相応しい相手もいないと断じてしまいたい。

　雪のちらつく中、シリーズ初となる白昼での壮絶な殴り合い、さらにバットポッドや新登場の飛行ユニット「ザ・バット」等、ガジェットマニアのツボをガッツリと押さえたアクションシーンも非常に見応えあり。特に、これまたおそらくバットマン史上初であろう、バットモービル（迷彩塗装仕様）複数台を向こうに回してのチェイス戦は、一見の価値あり。
　多分、バットマンが一度もバットモービルに乗らなかった作品も、今回が初だろう。そんな始めて尽くしにして、スリルと興奮と映像美の連続。実質、3時間弱の上映時間があっという間に感じるほど、アクション映画としては超一級か、それ以上の出来。
　

　…が、しかし。悲しいかな、確かに「アクション映画としては」文句なく超一級であるものの、あの「ダークナイト」の続編である事を踏まえると、やはり無意識に、必要以上にハードルを挙げてしまう。
　それが実に贅沢で、且つ傲岸不遜な事は重々承知しているつもりなのだが、個人的に、ベインを操る影の存在が、相当早い段階で分かってしまった点、さらに前半、ストーリー展開のテンポが少々雑に感じられた点を含めて、どうしてもコチラが想像する以上、もしくはそれをも凌駕した次元に着地してほしかったと、思ってしまう。
　もう一つ付け加えるなら、アン・ハサウェイ演じるキャットウーマンは、ストーリー上あまり関わりがないとは言え、「どうしても消したい」という過去や出生、同居していた彼女（？）について、もっと掘り下げてくれても良かった気がする。
　~~作中のセリフどおりいい尻してたけども、~~邪推だが、各方面から「ああ、やっぱりそうなるのね」と言われた彼とコンビを組んで、スピンオフの一本でも撮ろうという魂胆ではないだろうか。
　まあ、それはそれで観てみたい気もするが、その際は是非ともラスボス役にハル・ベリーを（ｵｲ）。

　さておき。
　少々納得がいかない部分もあるにせよ、３部作の完結編としては申し分なく、繰り返しになるが、アクション映画としても超一級の出来。
　聞くところによると、既にワーナーの上の方では、新たなるバットマンシリーズの製作に動き出しているそうだが、正直向こう１０年は本シリーズを越える作品は生まれまい。
　そういえばバットマンとスーパーマンが競演する話はどうなったんだ、とか、それよかスポーンの新作をだな、とか、いっそ「エイジ・オブ・アポカリプス」も映像化しろやダボがぁぁぁぁｯｯ！！…、とかはこの置いといて、観て損はない作品なので、興味のある方は映画館へ。
　もちろん、前作、前々作の復習も忘れずにね！

　なお余談だが、作中に登場する核融合炉と原子力発電は基本的にまったく違うモノなので、「あんなの爆発させたら、ゴッサム中に放射性物質が撒き散らされないか？」なんて言わないように、くれぐれもご注意を。

　そんなわけで、小生の評価は…、

　☆☆☆★★＋＋＋

　この点数でも低いと思えるのが逆にすごいな（笑）、星３つプラス３つ！！

　ところで疑問。ずっと幽閉されていたはずのブルースは、一体どうやって核融合炉の正確な爆発までの時間を知ったんだろうか。テレビで放送してたか？