「おおかみこどもの雨と雪」感想
コンピューターネットワークの暴走に、大家族の絆で立ち向かうスペクタクル巨編たる前作とは打って変わり、一組の少し特殊な家族が、大自然の中で共に成長していく姿を、優しく静かなタッチで映し出した本作。
多分に引っ掛かる点、疑問の残る箇所はあるにせよ、監督のネクストと人の手の温かみを感じさせる、なかなかの意欲作であった。
とにもかくにも自然の描写、特に主人公3人の名でもある花と雨と雪の美しさは圧巻。
中でも冒頭、花が横たわる野原一面に咲く花(面倒くさい表現だなぁ…)の一つ一つが、実写かと見紛うほど自然と風に凪ぐシーンは、アニメーターさんの執念と想いが伝わる、確かな手仕事で、今後のアニメ業界にとって、大きな目標であり壁となる存在となるだろうと確信する。
特別な環境ではあるものの、あくまで等身大の女性の、ごく当たり前の子育て奮闘紀である前半と、芽生え始めた自我と自身の秘密に戸惑い悩む、姉弟の視点に立った後半の対比もまた面白く、上記した美しい自然とも相俟って、紆余曲折ありながらも、瑞々しく健やかに成長していく子供達に、好感を覚えた。
ただ少々気になるのが、他ならぬ花の立ち位置について。
誤解を恐れずに言えば、彼女は根が善人で寛大ではあるものの、実は我々が想像している以上に世間知らずで、社交性のない女性ではないかと推測する。
だから相手が狼だろうが何だろうが、という意味ではないが、たとえ自分の子供が狼であろうと何であろうと、本当に困った時に救いを求める親友や相談相手が一人も登場しないのは、あまりに不自然だ。
「差別するなと言うのが差別」なんてややこしい言い回しもあるが、確かに彼女自身、子供達が迫害・差別されるのを恐れるあまり、必要以上に意固地に、守りに入っているようにも思える。逆から言えば、それは彼女自身が人を信用していない、あるいはそういう人がいない事の証左とも言える。
何も、完ぺき万能の母でなければならない、とは言わない。誰でも親になるのは始めての経験、失敗する事の方が多いに違いあるまい。さりとて、不完全ながらも子供にとっての最善は何かを(非常に照れくさい表現だが)子宮で考える母親の視点が、本作には欠落しているように感じてしまった。
(一生人の親になる事のない小生が言うのも何だが…)
すごく雑な言い方をすれば、彼女の存在は「男目線的」すぎる。果たして、共同で脚本を書かれた奥寺佐渡子さんが既婚者かどうかは存じ上げないが、母子モノを扱う以上、こうした女性ならではの視点というのを、もう少し取り込んでいただきたかった。
とはいえ、親はなくとも…ではないが、自由気ままに、しかし逞しく成長していく子供達とその決断には、グッと胸が熱くなる事ウケアイ。批評はどうあれ、是非とも若いお母様にご鑑賞いただき、そのご意見を伺いたいところ。
獣姦がどうこうなんて頓馬はこの際無視して、本来は生命の力強さと、家族の尊さを描いた良作でありながら、ややまとまり切れなかったというか、少し撃ち込みの弱さが目立ってしまった観がある。
偉そうな言い方をさせていただくと、あと10年か20年後、細田監督が今よりさらに円熟されてから作られるべきだったかもしれない、そんな作品。
それから、細かい事だが苦言ついでにもう一つ。終始花がキレイすぎる。
子育てで衰弱しきっている人の髪があんなツヤツヤで、目の下に隈の一つもないはずはなく、また、炎天下で一日中畑仕事していた肌が、あんな真っ白なはずもない。
ビジュアル的な問題、と言われればそれまでだが、意外とそういうところを観ている奇特なユーザーもいるので、用心されたし。
そんなわけで、小生の評価は…、
☆☆☆★★++
ただ、今さらだけど個人的にはすごく好き。星3つプラスプラス!!
余談。作中、花がジャガイモを植えるシーンで驚いたのだが、昨今の若人は種芋は半分に切って、根が出てから植えないとダメ、なんて当たり前の事を知らないのか?
オイオイ嘘だろ。そんなの、小学校の理科の時間か課題授業でもやったし、ずっと常識だと思ってた。都会の子は違うのか?
え、じゃあひょっとしてサツマイモの茎が食べられるって事も知らないの?夏休みにヘチマ育てて、お風呂で使うスポンジみたいなの作った事ないの?マジかよ…。
影ヤンェ…。どうしてこうなった(笑)。
いや、むしろここからどうやってああなった(笑)。
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