「あやしい彼女」感想


 2014年公開の韓国映画「怪しい彼女」を、謝罪の王様水田伸生監督「ピース オブ ケイク」多部未華子主演で日本リメイク。ある日突然、73歳から20歳に若返った女性が、青春を取り戻そうと大騒動を巻き起こすロマンチックコメディ。

 日本より先駆けての中国、ベトナムを始め、世界中でリメイクが計画されているという本作だが、その出来たるや、日本の一般的な少年漫画誌で、単行本2冊分連載されれば大健闘のギャグ漫画と大して変わらないレベル。オリジナル未見のため、どこまで手を加えられているかは存じ上げないが、ぶっちゃけ、日本映画界はいつまでこんなものを撮り続けるのだろうか、これで本当に喜んでいる人が版権元以外でいるのだろうかと、底知れぬ不安を覚えてしまった。

 アイデア自体は、まあ割とありがちとはいえ、思いのほか悪くない。若返って別人となった事で、今まで気づかなかった実の娘、あるいは周囲の人々の心中を窺い知り、自分の人生を見つめ直すという、良く言えば安定の、悪く言えばベタな構成。
 が、肝心のシナリオが、そのアイデアに対して完全に負けており、結果的に出オチのような恰好になってしまったのは、非常に痛い。展開もご都合というより、「何でそうなるの?」とツッコまざるを得ない、意味不明、理解不能な場面、例えば、孫のデスメタルバンドが、突然昭和歌唱のカヴァーバンドに変貌したりと、まるでコメディといえば何でも許されるとでも言わんばかりの強引さ、無理やり加減が目立ち、とうとう最後まで少しも笑えなかった。

 あくまで個人的な見解だが、小生自身これまで40年近く生きてきて、還暦はとうに越えてるのに頭の中身は中学生以下のガキオッサンや、逆に自分より年下だが人間的にも能力的にも心から尊敬できる人物に、何人も出逢ってきたので、ただ長く生きてるだけで偉いという考えを疑問視している。ために、あんな無礼で人の話に耳を傾けようとしない婆様が、若返った事で性格までマイルドに変貌、さも聖人のごとく扱われている事に、とてつもない違和感を感じてしまった。
 若返って少し視野が広くなった?それなりに苦労している分、含蓄はある?そう言われればそうかもしれないが、フィクションとはいえあまりにリアリティがなさ過ぎるし、小生の知る限り、本当の苦労してきた御仁は、決して自分の苦労自慢などせず、まして偉そうに説教などしない。そもそも、人に自慢するような苦労など、何一つ苦労ではない(昔、バイト先に支配人に言われた言葉)。
 少々脱線した。デスメタルの孫だって、実はプラプラしてる彼なりに思うところはあるかもしれないし、もしかしたら、婆様では思いもつかない視点で何かを考えている可能性だってある。婆様が女手一つで娘を育てるために、ガムシャラに働いてきたのはこの際ヨシとして、だからこそ見落としていた面、発想する事さえできなかった面を、もっと取り入れれば、人間ドラマとしての完成度も向上したものを。

 それに関連して言うなら、コメディという枠に囚われ過ぎたのか、とにかくいちいち「ほれほれ、こんな事してたら面白いだろ〜?」的なアクション、小芝居がブッ込まれ、反比例して目眩がするほど場を白けさせている点も、大きなマイナスポイント。
 この手の設定ならば、ヘタにギャグを入れなくても、カルチャーギャップや挙動だけで、十分自然な笑いを作れたはず。冒頭、天下の大女優にして燃える闘魂アントニオ猪木の元妻・倍賞美津子さんが、「東京ブギウギ」熱唱しながら商店街を小躍りで歩くシーンだけで、「あ、もういいですそういうの。ハイ、結構です」となっちゃうと、制作側の誰も気づかなかったのだろうか。
 言うならば、普通に御出汁を取って、普通に味噌入れて、普通にワカメかお豆腐入れれば、普通に美味しいお味噌汁ができるのに、さらにもう一手間のつもりでムダな材料ぶち込んで、台無しにしているような状態。当ブログでも既に何度も何度も書いてきた事だが、変な格好したヤツが変な事したり変な事言ったりしても、何にも面白くない。日本映画が抱えている弱点の一つは、間違いなくここだぞと、今一度声を大にして提言しておく。

 何より、上記した事にも関わるが、倍賞さん演じる73歳のカツと、多部未華子演じる20歳の節子が、同じ人間にまったく見えなかったのは致命的。
 いやいや当たり前じゃないか、という諸兄姉もいるだろうが、そこは本作の核と言って断じてよい部分である。多部未華子の女優、あるいはコメディエンヌとしての実力を貶める意図は毛頭ないが、少なくとも本作の場合は、よくてただの古臭い昭和のタイムトラベラーにしか思えなかった。


 笑えないギャグとやっつけなシナリオ、そして最後は定番のイイハナシダナー。リメイクにも関わらず、まったくいつも通りの、典型的な日本映画の悪い癖全開ムービー。一概には言えないものの、日本人がいかにコメディを撮るのが下手なのか、図らずも露呈してしまった一本と断ずる。

 頼むから、そろそろ本気出してくれ。終わるぞ、こんなのばっかり撮ってると。マジで。


 ☆☆☆★★−−−

 小林聡美さんの演技が相変わらず素晴らしかったんで、超オマケの星3つマイナス3つ!!


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