「クリード チャンプを継ぐ男」感想
「フルートベール駅で」のライアン・クーグラー監督・脚本、「ファンタスティック・フォー」のマイケル・B ・ジョーダン主演。名優シルヴェスタ・スタローンの名を一夜にして全世界に轟かせたボクシング映画の金字塔「ロッキー」シリーズ、9年ぶりの新作にして、初のスピンオフ。
かつてロッキーと激戦を繰り広げた世界チャンピオン・アポロ・クリードの隠し子が主人公という事でも、色んな意味で話題を呼んだ本作。
正直に白状すれば、前作の「ロッキー・ザ・ファイナル」でキレイに完結したシリーズを、もう一度掘り返す意義について甚だ疑問を覚え、公開の1週間ほど前までは「ああ、ハリウッドもよほどネタがないんだなぁ。あんだけ筋肉ムキムキだったスライも、随分と耄碌したもんだ」などと、本気で思っていた。
もしタイムマシンがあるなら、過去に飛んであの頃の自分に全力でショベルフックをぶちかまし、フィラデルフィア美術館の階段をバイクでウィリーしながら引き摺り回してやりたい。
とにかく素晴らしい。間違いなく、今年観た中でもトップ3に入る出来。本シリーズに影響されてボクシングを始めた人生の先輩方はもちろん、名前だけ知ってる若い世代にもオススメしたい、まさに2015年最後を飾るにふさわしい男泣き必至の一本。
ストーリー展開そのものは、いつものシリーズ定番仕様で、だいたい予想通りに事が運び、予想通りの結末を迎える、よく言えばオマージュ的、悪く言えば旧態依然とした内容。しかし、決してそれがマンネリでつまらないわけではなく、むしろシンプルで普遍的な構図の中に、過去シリーズへのリスペクトと新しいアイデアをふんだんに盛り込み、一見さんから熱狂的ファンまで楽しめる、激熱のドラマに仕上げている。
中でも特徴的なのが、要所要所に使われる長回しのワンカット。登場人物、特にマイケル・B・ジョーダン演じる主人公アドニスの心境を雄弁に物語ると同時に、画面にこの上ない緊張感と、その先にある開放感とのメリハリを生み出す演出として、見事に機能していたと評したい。
主人公二人の対比も、また面白い。
安定した仕事と裕福な環境を自ら手放し、父と同じボクサーの道を突き進むアドニスに、疑問を抱く者も少なくないだろう。事実、彼の行動は一般常識から考えれば自殺行為に等しく、あまりに幼稚で衝動的と言えなくもない。
しかし、偉大すぎる父親の存在と、非嫡出子という複雑な生い立ちに苦悩する彼にとって、ボクシングは自らの存在意義を証明できる唯一の手段であり、居場所だったと察する。
その胸に燃える闘争本能とともに、彼を彼たらしめるための、いわばアイデンティティーと誇り、そしておそらく自身も気づいていないかもしれない、父への尊敬の念を掴み取ろうとするその姿に、老いたロッキーはライバルの雄姿と、かつて拳一つでどん底から這い上がろうとした自身のハングリー精神を見出し、アドニスもまた、そんなロッキーに見知らぬ父の面影を感じ取ったに違いない。
愛する者達に先立たれ、すっかり過去の人となった自分を受け入れつつ、余生を過ごしていたロッキーにとっても、アドニスの存在は一人静かに死んでいくはずだった自分に家族の温かみを思い出させ、ボクシングへの情熱を再び燃え上がらせてくれた、いわば宿命のライバルから時間を越えて贈られてきた、プレゼントだったのではないだろうか。
片や本当の意味で自分の人生をスタートさせようとする若者、片や人生の終盤でもう一度命の火を燃やし、自分の誇りと魂を継承させようする老人。作中、ロッキーの身に起こるある出来事とも相乗し、それぞれが生きてきた全てをぶつけて挑む戦いを、より熱く、より感動的に描く事に成功している。これで熱くならない男など、この世にいようはずがない。
なお、ご自慢の肉体とアクションを極力抑え、年相応に渋みの増した名演を披露してくれたスライの功績も多大であると、付け加えておく。
欲を言えば、クライマックスの試合はもう少しじっくり観たかったのと、中盤の「亀」はちょっと何とかしてほしかった(笑)。まあおそらくは、ロッキーが亡き妻・エイドリアンと出逢ったきっかけが、彼女が働くペットショップに亀の餌を買いに行ってた事へのオマージュなのだろうが、あれではただの下ネタでは…?
さておき。数年前、某漫画雑誌でスライと対談した漫画家・板垣恵介氏が「ロッキーの最高傑作は『7』です」と願望込みのジョークで笑いを取っていたが、まさかそれが実現するとは、予想だにしなかった。
ハリウッド映画史に残る名作として名高い「1」「2」「ファイナル」はもちろん、ラジー賞受賞などファンからはなかった事にされている「3」「4」をも肯定し、意味を持たせた、真の集大成というべき作品(えっ、「5」?何それそんなのあったっけ?)。それでいながら、シリーズ未見の人でも十分以上に熱くなれる事うけあい。とにかく必見!!
☆☆☆☆★
Disってマジすみませんでした!!星4つ!!
(オイ)
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