「虹色ほたる〜永遠の夏休み〜」感想

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 川口雅幸原作のファンタジー小説を、銀河へキックオフ!!宇田鋼之介監督、BALLAD 名もなき恋のうた武井証主演(声)でアニメ映画化。
 1977年にタイムスリップしてしまった少年ユウタが、まもなくダムの底に沈む村で体験する、一夏の出会いと交流を描く。


 村で過ごす最後の夏を懸命に遊ぶ子供達を通じ、成長していく少年の姿を、鮮やかな色彩と独特のタッチで描いた本作。
 一見して、雰囲気だけで中身も実体もない「田舎万歳」「昔は良かった」映画と思われがちだが、その実、生と死、出会いと別れ、あるいは人生の中で今この瞬間にしか得られない体験、時とともに失われていく様々な感情や思い出への寂寥と哀愁が、極めてシンプルな物語の中にぎっしりと詰め込まれている。
 
 いわゆる「萌え絵」ではなく、かといってリアルとも違う、特徴的な人物描写もまた、本作が持つ、子供の未発達な曖昧さ、遠い昔のおぼろげな記憶をも表現しきるための、最良にして最善の手法として機能。
 例えば作中、ユウタがヒロイン・さえ子の手を取って走る場面で、数秒間だけ二人の姿をクロッキーのような写実的な線になる。これにより今まさに二人が生命を実感し、同時に大人へと近づいていく心中(または淡い恋心)を具体化、観客に強烈でダイレクトな印象を与える事に成功している。

 確かに、既存のアニメ絵と見比べて、とっくきにくさを憶える人もいるかもしれないが、ある意味アニメ業界全体に対する挑戦のようなこの描き方でなければ、本作の良さは十二分に発揮できなかったと断じておきたい。
 
 念のため、自然や村の情景描写の美しさは言わずもがな、実は登場人物の挙動の線等、細部に渡ってかなり細かく描かれている点にも注目、と付け加えておく。


 さていきなりで何だが、本作は一人の少年が、不思議な体験を通じて父親の死を乗り越え、成長していく物語だろうか。小生の考えは少し違う。
 父親からもらった帽子を被り、父親に教えてもらったカブトムシが取れる木を探しに、一人バスに乗って遠くの村までやって来る彼は、父の死を自分の中で既にある程度を受け入れ、前を向いて進もうとしているように見え、むしろ、亡き夫に未練を残す母親を気遣い、支えようとする逞しさすら感じ取れる。
 では、そんな彼が、あの村の体験から学んだ事とは、一体何か。察するにそれは「死と別れをもひっくるめた、変化との接し方」ではないだろうか。

 父親、ダムに沈んだ村、たくさんのホタル、村の子供達、お婆ちゃんと青天狗。その全てにはいつか必ず別れが訪れ、過去になっていくが、残された者はそれらを記憶と心に留め、自らの骨肉として生きなければならない。
 だからこそ、まだ無力で何者にも抗う事のできない子供達は、いずれ来るその時をために、一生懸命に遊び、自分と相手の記憶(思い出)を残すのだ。

 誤解を恐れず、且つくさい言い方をすれば、あの村での経験は、父親の死も人生という大局の中では変化の一部だと、彼に教えたのだと、小生は思う。そういった意味も含め、ネット上で賛否両論巻き起こっているラストシーンについても、彼がようやくその事を真に受け入れられる年齢になったのだと、勝手に想像してみる。
 すなわちこの物語の本質とは、昭和53年から(おそらく)現代、もしくはそれ以前の、ユウタの父親がまだ子供の頃、さらに遡って青天狗の青年時代までを切り取った、変化の歴史だったのではないかと思うのだが、いかがだろうか。


 ゆえに小生には、あの昭和53年という作中の時代が、額面どおりとはどうしても思えない。少し飛躍しすぎた考えだが、実はあの村が、子供達にその事を覚らせるため、時間軸から切り離された、優しく残酷な世界だったとしたら。そしてあの場にいた子供たちも、ユウタさえ子と同じ境遇であり、ホタルはかつて村にいた子供達の魂だとしたら。
 もちろん作中の矛盾点等、疑問が多々残るのは承知している。いかにも厨二くさい発想だという見解も、甘んじて受け入れよう。しかし、あのお婆ちゃんと青天狗の表情に、何か全てを知っていたかのような憂いに満ちたモノを感じてしまう。
 ユウタの帰るべき場所、さえ子に待ち受ける運命、子供達の行く先を慮りながらも、みんなを笑顔で見送ったあの二人は、今も蝉の鳴きしきる夏の日差しの中、赤々と実ったあのトマト畑の向こうで、旅立った子供達の背中を見守り続けているように、思えてならない。



 2週間近くも散々悩んだ挙句、うまく言葉にならずに結局いつもどおり、またはいつも以上によく分からん文章になってしまった。しかもその間に、上映館がドンドン減っているという、この体たらく。あぁ、これだから高卒低所得は…。

 ともかく、王道にして野心的、しかし子供のために作られた高純度児童アニメ。こういう良作こそ、映画館で観られたし。

 しかしここ最近、ようやくアニメ業界全体(特に劇場作品)が真の意味での再生が始まったように思うが、これもマイマイ新子の影響なのか。だったら嬉しいんだけど。


 ええ、しつこいようですが、当ブログは「マイマイ新子と千年の魔法」を全力で応援しています!!



 さておき、小生の評価は…、

 ☆☆☆☆★

 能登ちゃん最強説(エー)、星4つ!! 


 

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