「俺はまだ本気出してないだけ」感想


 青野春秋原作の同名コミックを、HK/変態仮面福田雄一監督「ALWAYS」「クライマーズ・ハイ堤真一主演で映画化。ある日突然、漫画家になると宣言した42歳バツイチ無職の子持ち中年・大黒シズオと、彼に振り回される周囲の人々を描くゆるライフコメディ。

 一見して、いい年こいて蓄積も教養も当然実力も才能もなく、しかし自分に意味もなく自信満々で常に上から目線のパーフェクトダメオヤジの暴走劇かと思わせといて、実際ほぼそのとおりの内容(笑)。しかしそれだけでなく、しっかりと「大人の目線」というべきか、あえて否定も肯定もせずありのままを受け入れる、妙な懐の深さを持った作品。
 
 基本、主人公・シズオ浅い人間性を中心に、彼のバカさ加減に呆れる者、何かと巻き込まれながら不思議な憧れを抱く者、あくまで客観的に見守る者等、様々な視点から描く事で、一つの群像劇のような物語を形成。これにより、本来ならただただ痛いだけの彼の存在を、まるで社会的必然性を持った人物であるかのように錯覚…もとい演出、そのダメさ加減さえも憎めなさに変換する事に成功している。

 福田監督らしい、お馴染みのメンバー(佐藤二朗ムロツヨシ等)とのいつものグダグダ展開ながら、作品の雰囲気と見事にマッチ。実質かなりギリギリなオッサンの物語にも関わらず、深刻さをうまくゴカマし…もといマイルドな空気で包んでいる点も高評価。

 正直に言えば、小生はこの手のガキオッサンがものすごく嫌いであり、親類にいようものなら間違いなく片足タックルからのマウントパンチ連打→大説教のコンボだが、不思議と腹が立たない…いや、立つには立つが(笑)、なぜか妙な愛着を覚えてしまうのは、偏に演じる堤真一の力量に他なるまい。ある時は天才数学者、ある時は熱血新聞記者、またある時は孤高の外科医と、その卓越した演技力と渋い大人の魅力で十全以上の仕事を成してきた氏が、まさかの半ニートオヤジを演じると知った時は、ぶっちゃけ悪い予感しかしなかったが、これまでとは打って変わったコミカルな演技で作品のよりよい方向へと導く事に貢献。
 氏の主演がなければ、本作の完成はなかったと断言してもよい。どうしてこんなに演技が上手くてカッコいい人が、この年まで結婚できなかったのかさっぱり理解できない。世の中には大した芝居も出来ないのに大河ドラマの主演を張った挙句、8歳年上の嫁をもらったSAL(スティック・アンド・ラディッシュ=棒読み、大根)な俳優もいるというのn(以下略)。

 さておき。これは「いつか俺の中のスーパーパワーが〜」なんて厨二臭い事考える、しかしどこかで自分の限界とアホさ加減に気づいて内心のた打ち回っているオッサンの哀愁劇であり、実は特にイイハナシでもカタルシスもないのだが、彼の生き様(?)の俯瞰・客観する事により自身の生き方を見つめ直し、如いてはかのハンナ・アーレントの説いた人間の条件「労働・仕事・活動」とは何かを己に問う、いわばコペルニクス発想の転換によって表現された逆説的人間賛歌ではないかと思うが、いかがだろうか。…ハイ、思いませんね。僕も思いません(ナンジャソラ)。

 まあとはいえ、何かを得るような映画ではないにせよ、出来はムダにいいので、あくまで一コメディ映画としてと、「こんな大人にならないようにしようね」という意味でオススメしておく。
 余談だが小生、今更ながら本作で初めて橋本愛の良さに気づいた気がする。あの子は達観しているというか、少し超然とした雰囲気がものすごく似合う。逆に感情をむき出しにして暴れまわる、キルビルGOGO夕張みたいな役を演じたらどうなるか、是非とも観てみたいところ。
 …いや、もしかしたら既にやってるかもしれないけど、印象薄くてあんまり覚えてないんだわ(エーー)。


 ☆☆☆★★++

 つーか、そう簡単に漫画家になられてたまるかよ(笑)、星3つプラスプラス!!