「ジョン・ウィック」感想


 キアヌ・リーブス主演・製作総指揮マトリックスでスタントコーディネーターを務めたチャド・スタエルスキ初監督作品。引退した元凄腕の殺し屋が、愛犬を殺したマフィアのボスの息子に復讐すべく、再び闇の世界へと舞い戻る。

 ここ数年、作品に恵まれなかった観のあるキアヌだが、これは久々のスマッシュヒット。いわゆる典型的な、裏社会を舞台にしたアンチヒーローものながら、見せ方という点でそれまでとは一線を画すものを呈してくれたと評したい。

 まず何といっても、キアヌ演じる主人公ジョン・ウィックの存在感。カンフーと銃を組み合わせた戦闘スタイル「ガン・フー」を駆使し、悪漢どもをバッタバッタになぎ倒す、裏社会伝説の殺し屋としての側面と、亡き妻を愛し、平穏な生活に安らぎを見出さそうとする人間的な部分が、見事にマッチ。愁いを帯びた無精ヒゲ顔とも相乗し、作品にフィルム・ノワールを思わせる、抒情的な陰影を齎している。

 バカ息子がジョンの愛犬を殺したがために、自身の命と、組織の存続さえも窮地に晒される、ジョンの元雇い主であるマフィアのボスから見た視点も効果的で、まるでホラー映画の得体のしれない化け物に襲われる犠牲者よろしく、ジワジワと追い詰められていく恐怖とともに、危ういバランスの上で成り立っていた裏社会の秩序が、たった一つの異端分子と、たった一人のバカのバカな行動によって一気に崩れていく様を、多角的に描いてみせている。

 小生が個人的に注目したいのは、物語の舞台である街そのもの。殺し屋ご用達の「掃除屋」やホテル等、一般人の目には届かない闇に根差した商売と人脈がしっかりと組み込まれており、それが物語を無理なく、機能的に動かしつつ、ジョンというどこにも属さない、しかし自然と街に溶け込んだ怪物を、よりリアリティのあるキャラクターに押し上げていると感じられた。

 ネットでの評判を読む限り、「なんぼなんでも、犬を殺されたぐらいでそこまで…」といった意見もあるが、そういう事ではない。もちろん、人間も犬も等しく尊い命だが、この場合それ以上に、ジョンにとってあの犬が、自分を闇から解き放ってくれる唯一のぬくもりであったと察する。
 もしかしたら、であるが、かつて同業者からも恐れられた凄腕の殺し屋たるジョンにとって、妻との出逢いと、とともに過ごした時間は、本来得られるはずのない救済であった事は論を俟たない事として、その突然の病死は、犯してきた罪に対する罰であり、逃れる事のできない業として、彼の魂に楔のごとく打ち込まれたのかもしれない。そんな彼を、ギリギリで日の当たる場所に繋ぎとめたのが、妻の残したあの犬だとすれば、彼の慟哭と怒りにも説明がつく。
 手紙で「車ではダメ」と言ったのは、あの犬が世話をしないと生きていけない命であると同時に、裏の世界と接点を持たない、穢れのない存在であったからではないかと、勝手に想像してみるが、いかがだろうか。
(そういえば、カミさんはジョンの仕事について、正しく理解していたのだろうか。そんな描写はなかったと思うが…)


 不満点を挙げるなら、クライマックスはもう少し「因縁の清算という色がほしかった点と、ジョンの親友で同業者演じるウィレム・デフォーが、毎度お馴染み見たまんまの役だった点(笑)。いや、小生もすごく好きな俳優だし、いい仕事をする人なのだが、出てきた瞬間から「いかにも」な雰囲気を醸し出してしまうのは、正直どうにかしていただきたい。

 とはいえ、リベリオン「ウォンテッド」と同じく、そのうち色んな漫画やアニメでパクられ…もとい、オマージュされるであろう本作。すでに続編も決定しているそうなので、興味のある方は是非。


 ☆☆☆★★+++

 ところで、アメリカってペット飼うのに手続きとかクソ面倒なんじゃなかったっけ?(台無し)星3つプラス3つ!!