「龍三と七人の子分たち」感想
今や日本映画界を代表する映画監督「世界のキタノ」こと北野武監督最新作は、引退した元ヤクザのジジイ達が、詐欺グループの若造どもを成敗するべく立ち上がるドタバタブラックコメディ。
前作「アウトレイジビヨンド」から一転、北野監督の十八番であるヤクザものと、ビートたけしお得意のブラックジョークが見事に融合した、ひたすらに笑える一本。
まず何と言っても、藤竜也氏をはじめ、平均年齢72歳という主要キャストの面々がすごい。近藤正臣氏、中尾彬氏、品川徹氏といった、並みの映画なら出演者リストのトリを飾るような豪華メンバー揃い踏みで、その存在感たるや、年齢は一回り下とはいえ、同じく大ベテランであるはずの下絛アトム氏が、ケチなチンピラを演じていても違和感ないほど。
そんな超大御所の方々が、旧態依然とした時代錯誤甚だしい元ヤクザを大真面目に(しかし傍から見ると非常に素っ頓狂でユーモラス)に演じられるのだから、これが面白くないはずがない。これだけの名優を集め、しかもこれだけハチャメチャな映画が撮れるのも、北野監督の功績と信頼性、そして人柄によるものと察する。
基本ストーリーとしては、仁義も礼節も知らない若手の半グレ犯罪者集団に、ジジイ達が昔ながらのやり方で天誅をくれるという、いかにも監督らしい内容ながら、変にウケを狙ったり、しょーもないギャグでお茶を濁すなんて愚は犯さず、日常の中のカルチャーギャップ、あるいはちょっとした勘違いや噛み合わなさを自然に汲み取り、フォーカスとロングショットの使い分けで笑いを取りつつ、物語を構築していく手腕はさすが。
昨今よく見かける、お笑い出身の映画監督作品特有の「コントの延長」のような場面が、本作にも多分に見受けられるが、40年近くお笑いに携わり、四半世紀以上メガホンを取り続けてきた監督の経験からか、それらをワンカット限りの点ではなく、例えばキャラクター描写や次の展開への布石へとなる線へと、うまく昇華させている。
その意味で言えば、監督ご自身が演じられるマル暴の刑事は、バラエティ番組でたけし軍団がしっちゃかめっちゃかやった後、ピコピコハンマーでツッコミを入れるいつもの「殿」のポジションとも取れる。登場シーンこそ少ないものの、いいまとめ役として機能している点では、まさにビートたけし氏の適役だったと評したい。
それと同時に、ただただジジイ達の暴走を面白おかしく映しているようでありながら、時代に適応しきれない取り残された存在である彼らの悲哀や、かつて街中を大手を振って歩いていたと思われる、血気盛んな若い頃とは打って変わり、金もなく、家族にも疎まれ、周囲から白い目で見られつつ、残された時間を持て余す男の薄暗い孤独と、もしかしたら情けなさや後悔をも、見事に内包している点が、またニクい。
しかし、安易な泣かせ演出や、クソサムいピアノBGM付き説教ターンには走らず、そこに気づいちゃう人ならそう受け取りなよ、そうじゃない人は適当に笑ってくれればOKだからさ、といった懐の広さを感じさせるのも、いかにも北野監督らしい。
どこぞの某御涙頂戴とCG大好きではないが、わざわざ狙って泣かせようとする猥褻さを、北野監督はものすごく嫌うと、何かの雑誌のインタビューで読んだ事がある。個人的にも最近、特に邦画は、制作規約にそんな約款でもあるのかと勘ぐりたくなるぐらい、いちいちどこかで感動エピのようなものを場違いにブッ込んでくるのに、いい加減白けていたところなので、そういった風潮に「うるせえバカヤロー!コマネチ!」とツッコんでいただいたようなこの潔すぎる作風に、胸がすく思いがした。
これまで「世界のキタノ」として、数多くの名作を世に送り出して来た監督が、あえてコメディアンとしての立場から「浅草のたけちゃん、ここにあり」を見せつけた作品と断ずる。エンターテイメント作品という点においては、もしかしたら「座頭市」より上かも。
まあとにかく、一見の価値ありだコノヤローバカヤロー!!コマネチ!!
☆☆☆★★+++
ちなみに、20年以上前に亡くなったうちの爺様もだいたいあんな感j(以下略)、星3つプラス3つ!!
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