「天才スピヴェット」感想


 ライフ・ラーセン原作の小説「T.S.スピヴェット君 傑作集」を、アメリジャン=ピエール・ジュネ監督が映画化。孤独な天才少年T.S.スピヴェットくんが、モンタナからワシントンD.C.を目指して冒険の旅に出るロードームービー。

 ちなみに、本作が長編映画デビューとなる主演のカイル・キャトレットくんは、6ヶ国語を話す事ができる上、マーシャルアーツ選手権7歳以下部門で3年連続世界チャンピオンを輝いた経歴を持つ、モノホンの天才少年なんだとか。才能も金も、あるところにはあるもんだのぉ(ダレ?)。

 さておき。飛び出す絵本、あるいは玩具の世界を彷彿とさせる、監督お得意のビジュアルは本作でも健在。正直、前作の「ミックマック」では、内容との兼ね合いもあって、空回りな印象を受けたが、今回は双方が見事に噛み合い、天才少年の目から観る空想とロマンに満ちた世界の形と、欲と虚像に塗れた大人達の内面を、時にコミカルに、時にシニカルに描く事に成功していると感じた。

 また、主人公スピヴェットくんの驚異的な頭脳と行動力を持つ天才児としての側面と、弟の死をどう受け止めるべきかについて悩み続ける、普通の子供としての側面という二つの要素が、ただただスーパーキッズが大人達を圧倒していく無双ストーリーとは一線を画す、いい意味での多面性を物語にもたらしている。

 極めて賢い少年の視点を通じて、大人達の浅ましさ、融通の利かなさを皮肉交じりに映し出した本作だが、まったく個人的な解釈をするなら、スピヴェットくんの本当の目的は、賞をもらう事でも、大人達を欺き困らせる事でもなく、純粋に当たり前の子供として扱ってもらう事ではなかったかと察する。
 それは、誰かに頭を撫でられ、褒められるのはもちろん、悪い事をした時にきちんと叱ってくれる事も含まれる。おそらく彼自身も気づいていない事だが、小生にはどうにも、彼の一連の行動が、そこに直結しているように思えてならなかった。
 例えば、モンタナの小さな田舎町には、彼の両親、教師をはじめ、彼を正当に評価でき、同時に彼より頭のいい人物がいなかった(少なくとも彼の感覚では)。そこで彼は、そういう相手、つまり自分を越える人(=彼の中での大人)に逢うべく、ワシントンまでの長旅を決意する。そう考えると、色々と合点がいく。
 結果的に、彼より賢い大人は作中に一人も登場しないのだが、辿り着いたワシントンで、そんなバカな大人達に利用されてしまう辺りが、彼の世間知らずな子供たる部分の一端ではある。上記した弟の件もあわせ、彼が常にそこはかとない寂寥を纏っているのは、実は「頭が良すぎて当たり前の子供でいられない」彼なりの苦悩だったのではないだろうか。クライマックスの展開は、まさにそんな彼が、ようやく普通の子供に戻れた瞬間に違いあるまい。
 彼とは真逆に、劣等生ゆえに周囲を冷静に、客観的に見ていた(眺めていた)少年期を過ごした小生は、そう感じざるを得なかった。


 人によっては、こましゃくれた小生意気なガキが放蕩しているだけのようにも思え、よく言えば子供らしい遊び心に溢れた、悪く言えばムダだらけでナンジャソリャ要素満載の内容。意見は思いのほか分かれると察するものの、個人的には割と好き。できればカイルくんには、このまま俳優業を続けるにせい何にせい、全うな大人になっていただきたい。洋画の有名子役が、まともに大成した例をほとんど知らないので…(エー)。
 ちなみに、日本の坂上忍杉田かおるは、成功例のようで実は失敗例だかr(以下略)。あと、安達祐美オッパイ出したから成功例(エーー)。

 ☆☆☆★★++

 キャンピングカー内で、警備員をやり過ごすシーンは斬新すぎてちょっとフイタ(笑)、星3つプラスプラス!!