「楽園追放 -Expelled from Paradise-」感想


 東映アニメーションニトロプラス原作。機動戦士ガンダム00」水島精二監督×魔法少女まどか☆マギカ虚淵玄脚本による、オリジナルフルCGアニメ。
 西暦2400年、人類の98%が地上と肉体を捨て、電脳世界「ディーヴァ」でデータとして暮らす地球。捜査官アンジェラ・バルザックは、謎のハッカー「フロンティアセッター」の正体を追うべく、地上世界へと降り立つ。

 美少女×サイバーパンク×ディストピア(またはユートピア)と、80年代のOVA作品を彷彿とさせる内容ながら、そんな「懐かしき未来」を踏襲しつつも、現代のアニメ技術と細部へのこだわりで正統進化させた快作。
 特筆すべきは、ストーリー、メカアクション、SF設定アンジェラのプリケツ等、その多くが確かなプロの仕事を感じさせる一級の出来であると同時に、それらが奇跡的なバランスで同居している点。二つの異なる世界を巻き込んだ、ともすれば非常に複雑で面倒くさい事になりかねない物語を、アンジェラを含む主要キャラ数人の主観にフォーカスする事で、必要なディテールを適度に残しつつ、すっきりとした分かり易い展開に落とし込んでいる。

 本年度個人的ベストムービーの一本であるたまこラブストーリーが、当たり前の日常を当たり前に描きつつ、いかにアニメーションとして掘り下げるかに挑んだ、いわば徹底した引き算の作品とするならば、本作は対照的に、日常から非日常まで思いつくままにぶち込んだ上で、必要な要素だけを丁寧に取捨選択し、掘り起こした、足し算の作品であると評したい。
(もちろん、どちらが上か下かという問題ではない。念のため)

 本作のキーとなる電脳世界「ディーヴァ」についても、少々触れてみたい。作中の言葉を借りるならば「肉体という枷から解き放たれた」事で、システムに完全管理される一方、個々のメモリ容量が許す限り、すべてが自由。おそらくは倫理観も我々とはまったく異なり、性行為もただの娯楽の一種、もしかしたらハッキングといったシステムに悪影響を及ぼす行為以外の犯罪すら存在しないのかもしれない世界。誤解を恐れず言えば、ある意味完成された社会主義とも言える。

 何より興味深いのは、こうしたシステムが完全な悪として描かれていない点。ネタバレもヘッタクレもないので書いてしまうが、タイトルから察せられるように、最終的にアンジェラは、その楽園を追放されてしまう。が、あくまでアンジェラの視点から観れば非情な措置であっただけで、実際のところは、そうならざるを得なかった人類を守るため、不安要素を排除しただけに過ぎない。彼らもまた、彼らなりの正義を執行したのである。
 実は本作において、いわゆる立場上の「悪役」はいても、本質的な悪は存在していないと思われる。電脳化した人類を奴隷を揶揄し、そうなってまで生きたいとは思わないと言うエージェント・ディンゴと、もう一人ある人物(?)との出逢いにより、アンジェラもまた新しい価値観に目覚めていく。だが、それは古い観念の否定ではなく、(色々あったとはいえ)置かれた状況において、自分の頭と心で考え、行動した結果だと小生は考える。
 然るに、これは仮想未来の姿を通して、究極的に個々が持つイデオロギーと価値観のぶつかり合い、それによってもたらされるケミストリーを描いたヒューマンドラマであると断じるが、いかがだろうか。

 とはいえ、システム内でしか生きられないという事は、全てがその範疇に限定される事でもあるので、発展も変革もありえない、極めて閉じられた夢も希望もない世界ではないかとも、付け加えておく。


 余談だが、クライマックスのメカ戦(板野一郎氏監修!)に登場したアンジェラのライバル達。チョイ役にも関わらず、林原めぐみ閣下高山”バーロー”みなみさんといった主役級の声優が参加されているが、彼女らがアンジェラより先に「あの場所」に辿り着いていた場合、また違う物語が生まれていたのではという可能性を示唆しているのではと、勝手に邪推する。
 じゃあ、冒頭に出てきたチャラ男は何なのかと聞かれたら、とりあえず聞こえないフリをして逃げるが(エー)。

 まあ、とにかく。例によって結局何が言いたいのかよく分からん文章になってしまったが、要するに文句なしオススメの良作。SF好き、プリケツ美少女好き、ロボ好き、ロック好きなら迷わず!!

 ポロリもあるしね!!

☆☆☆☆★−

 アンジェラのTKBの描き込みがちょっと甘いんで、そこだけ減点(エーー)。星4つマイナス!!