「イン・ザ・ヒーロー」感想


 「モンゴル野球青春記」武正晴監督「20世紀少年」唐沢寿明主演。日夜、命がけのスタントで、映画や特撮番組を陰から支えるスーツアクター達の活躍と苦悩の日々を描いた、アクションヒューマンストーリー。

 小生のような特撮ヲタクにとっては、何がどうでも好きにならざるを得ない題材ながら、それにしたって素晴らしい出来。一部では「平成の『蒲田行進曲』」との呼び声も高く、その名に恥じない出来だったと評したい。

 まず何より、芸暦25年のベテランスーツアクター本城渉を演じる、唐沢寿明の存在抜きには語れまい。自身も若手時代、スーツアクターを経験しただけあって、50代とは思えないキレのあるアクションと、身体を張ったスタントを披露。自身の仕事に誇りを持ち、しかしいつかは世界に日本のアクションをという大きな夢を抱きながら、首の故障を圧して過酷なスタントに笑顔で挑む様は、どこかミッキー・ローク主演「レスラー」を彷彿をさせる、哀愁すら漂っていた。

 また、もう一人の主人公である若手人気俳優一ノ瀬リョウ演じる福士蒼汰くんも、なかなかいい仕事。ハリウッド進出という目標の掲げながら、礼儀もろくに弁えず、特撮番組やそのスタッフ達を小ばかにしていた彼が、本城達の熱意と仕事に対する姿勢、そして自身の未熟さを痛感し、徐々に本気でアクションを学ぼうと心を入れ替える、成長物語としての面白さはもちろん、彼の目を通して、番組を裏で支えるアクターやスタッフさん達の尽力、またその苦労や苦悩、悲喜こもごもを、ありありと語っている点もグッド。
 個人的には、小道具の変身アイテムを放り投げる一ノ瀬に、それを作るのに小道具がどんだけ徹夜したと思ってんだと怒鳴るシーンと、自ら進んでスタントを演じるも、まるで動きがなってない一ノ瀬をバカにするハリウッド映画のプロデューサーに、本城達が「俺達の仲間を悪く言うな」と詰め寄るシーンに、グッと来た。

 ブラジャーの中に詰め物を入れ込み、ピンクのスーツアクターを演じる寺島進氏や、姉御肌で関西弁キャラ黒谷友香さん等、共演陣の個性豊かな面々により、時にコミカルに、時にシリアスに、しかし良い作品を作るべく、お互いを信頼し、日々鍛錬し合う姿もさる事ながら、クライマックスの百人斬りでそれが一気に昇華する展開には、さすがに涙腺が決壊。
 加えて、和久井映見さん演じる本城の元妻を絡めた、家族ドラマとしての側面と、メンバーそれぞれの人生にも、少なからずスポットを当てている点にも、注目したい。
 特に、あるメンバーの結婚式から始まる一連の場面は、個々の明暗をうまく掘り下げた、秀逸の出来。

 しかし、他の仕事に比べて怪我や事故も多く、かと言って給料が特別いいわけでもない。まして、顔出しで番組に出演する事もほとんどなく、自分の仕事だと分かるのは、ヲタクのオッサン達ぐらいなものという、非常に厳しい世界。正直、好きでなければ絶対に続かない仕事に違いあるまい。
 単純に金持ちになりたいなら、他の方法は山ほどあるはずなのに、わざわざこんな辛く、他の映画関係者から「ジャリ番(=子供番組)」と揶揄されながらも、ほとんど人目につく事のない職務を選ぶのか。察するに、それはきっと、この仕事でないと得られない何かがあるからだろう。

 その昔、とある児童漫画の作者に関する、こんな話を聞いた事がある。彼は、某児童漫画雑誌でそこそこ人気のある作品を描いていたが、本当は子供向けのギャグ漫画なんぞ今すぐやめて、小林よしのり江川達也といった、いわゆる文化人系の漫画家になりたいと長年思っていたという。
 しかし、毎月届くファンレターを読むと、ある女子児童は毎日学校でいじめられ、本当に辛くて辛くてしょうがないけど、自分の部屋でその作者の漫画を読んでいる時だけ、心から笑えるんです、この作品は私の生きる希望です、みたいな事が書いてあったそうな。
 また別の児童からの手紙には、小学3、4年にして難病を患い、余命幾許もない状態で、手術を受ける事になったものの、成功する確率はほとんど0に近い、それでも先生の漫画で笑顔になれて、勇気をもらっています、との内容が。さっそく、色紙いっぱいにその漫画キャラクターを描けるだけ描きまくり、「病気に負けるな、頑張れ!」とのメッセージを添えてその子に贈ったという。
 結局、手術は失敗し、その子はお星様になってしまったものの、そういった経験を繰り返すうちに、彼はいつしか「もう俺、一生児童漫画家でいいや」と思えるようになったという。

 おそらく、どんな仕事にも言える事なのだが、世間の目にはつまらない、見下されてしまいがちな仕事であっても、誰かのためになっている、誰かの役に立っていると思える事が、実は働く事の最大の喜びであり、賃金以上の価値、いわばプライドのようなモノになるのかも知れない。
 もちろん、バイトや契約社員を安い賃金でこき使うのは言語道断だが、子供番組であろうと、ハリウッドの超大作だろうと、人々に感動と夢を与える事に大きな違いはないはず(かける金額はケタ違いだが)。それはまるで、一等星の輝きに遮られて隠れてしまっている六等星達が、実は一等星にも負けないくらい強い光を放っているように。
 映画ファンと特撮ファンの末席を汚す身として、共に尊敬の念を抱かずにはいられない。

 本城達が手がける劇中劇「ドラゴンフォー」のスーツも、まるでパーティーグッズに手の生えたようなチープでありがちなものではなく、何ならそのまま放送されてもおかしくない、しっかりとしたクオリティ。しかも、主題歌は串田アキラという熱の入れよう。これだけでも、本作スタッフ陣の愛情とリスペクトがビッシビシと伝わってくる。

 終盤、本人役で特別出演された、松方弘樹の台詞は男泣き必至。とにかく、映画ファンも、特撮ファンも、時代劇ファンも、絶対に見逃してはならない一本。このキャッチコピーは、本作にこそふさわしいと断ずる。

 世界よ、これが日本のヒーローだ!

 ☆☆☆☆★++
 
 てか、ドラゴンフォーとトッキュウジャーの共演エピまだー?(ネェヨ)星4つプラスプラス!!