「超高速!参勤交代」感想


 第37回城戸賞を受賞した土橋章宏の脚本を、「すべては君に逢えたから」本木克英監督、ドラマ「ハンチョウ」シリーズ佐々木蔵之介主演で映画化。
 享保20年(1735年)、湯長谷藩(現在の福島県いわき市)藩主・内藤政醇とその家臣達が、一年間の江戸での勤めを終えて帰国した直後、「5日のうちに再び参勤交代せよ」との無理難題を突きつけられ、狼狽しながらも知恵と団結力で江戸を目指す時代劇コメディ。

 時代劇とコメディ。ともに昨今の邦画界において、なかなか良作に恵まれず、苦戦を強いられてきた2ジャンルだが、これは近年稀に見るスマッシュヒット。久々に声を上げて大笑いできる、しかし高いメッセージ性をも内包した一本。

 名称は知っているが、実際にどういうものかはよく分かっていない人が多いと思われる「参勤交代」という制度を、その成り立ち、目的等を冒頭から分かりやすく解説し、且つ、田舎小藩の財政、徳川幕府との力関係を絡め、どれだけ無茶な要求であるかを無理なく観客に伝えている点が、まず見事。
 小難しい専門用語等はなるべく省き、必要最小限のポイントだけを押さえる事で、時代劇に馴染みのない世代でも、充分に楽しめる内容に仕上げている。

 佐々木蔵之介演じる主人公・内藤政醇をはじめとする湯長谷藩藩士たちが、金も時間も人手もない中、知恵を絞りに絞りまくり、時には滑稽ですらある奇策で難題を突破していく可笑しさと爽快感もさる事ながら、それを西村雅彦氏寺脇康文といった実力派俳優陣が大真面目にこなす姿が、より可笑しさを誘うとともに、圧政に苦しみつつも最善を尽くそうとする地方武士の意地と誇りをも、体現しているかのように見えた。

 余談だが、本作のラスボス的存在である老中・松平信祝演じる陣内孝則の、あのいやらしさと憎たらしさ全開の演技はまさに氏ならでは。鯛を2日かけて大事に食べる政醇に対し、鯛の目しか食べない変人っぷりに加え、作中、あの手この手で政醇を妨害し、私腹を肥やそうと企むその様たるや、芝居と分かっていてもハラワタ煮えくり返るムカツキ具合。
 あまり詳しくは書けないが、ために全ての策略が明るみになるラストなど、心の底から「ざまあ見ろやボケ」と思ってしまった(笑)。今現在、日本であそこまで憎たらしい上司を演じられるのは、氏と香川照之ぐらいなものだろう。元ザ・ロッカーズという経歴が世間から忘れ去られて久しいが(関係ない)、今後とも名バイプレーヤーとしてのご活躍をお願いしたいところ。

 田舎の貧乏藩でありながら、武芸の腕はみな一級、信祝がよこした刺客など「竹光でさえなければ」軽々一蹴できるツワモノ揃いというのも面白い。クライマックス、江戸城を前に突然の大チャンバラ劇が展開されたのには少々面食らったが、「ボロは着てても〜」の例えではないにせよ、武人とはかくあるべきという具現と、田舎者、貧乏なりの気骨というのを、感じずにはいられなかった。

 現在の福島県が舞台なだけに、どうしてもあの震災と結びつけて考えがちだが、それもひっくるめて、地方だから田舎だから、あるいは金がないから不幸な出来事があったからと凹まず、全員が団結し、知恵を出し合うことで、自分達にしかできない事をやっていこう、この土地に生まれた誇りを持とうという気持ちが、延いては我が国をよりよい方向へと導く原動力になるのではないかと、本作は語っているようにも思える。
 「貧乏は辛いのぉ」と陽気に笑う政醇の晴れやかな表情は、どうしようもない事はそういうもんだと受け入れ、むしろそれさえも楽しんで進んでいこうとする度量こそ肝要なのだという事の象徴に違いあるまい。

 正直、深田恭子のあの役は本当に必要だったのか?とか、あの人あんな刺されたのに何で生きてんの?とか、色々ツッコミどころはあるにせよ、非常によくできた作品。時代劇に限らず、こういう新しい切り口に、邦画界はどんどん挑戦していただきたい。

 ☆☆☆★★++

 政醇の居合い斬り、超カッコいいので必見!星3つプラスプラス!!