「たまこラブストーリー」感想


 京都アニメーション原作・制作。2013年放送のアニメたまこまーけっとの後日談を、テレビシリーズと同じく山田尚子(監督)×吉田玲子(脚本)×堀口悠紀子(キャラクターデザイン・総作画監督)のけいおん!トリオで映画化。

 高校卒業を間近に控えたある日、幼馴染の同級生・もち蔵から突然の告白と、東京の大学への進学を告げられた主人公・たまこの、恋と自身の進路に揺らぐ気持ち、そして最後に導き出した答えを、瑞々しいタッチで描いた本作。正直、テレビシリーズはファンタジーとしても、日常モノとしても非常に中途半端な出来だっただけに、実はそれほど期待していなかったのだが、これがまたトンでもない不意打ちを食らってしまった格好。

 ここ最近観たテレビアニメの劇場版の中でも、間違いなくダントツの出来。ヘタな小細工一切ナシ、純度120%、清々しいまでに超ド直球な青春ラブストーリー。と同時に、シンプルながらもネクストを感じさせる、新世代の模範のような堅実且つチャレンジスピリット溢れたフレッシュな作品。物語の、そしてアニメーションの底力というヤツを、まざまざと見せつけていただいた事に、心からの敬服と感謝の意を表したい。

 幼馴染の秘めた恋心、時間とともに変化していく周囲と、そこに取り残される自分の気持ち。ともすれば非常にありがちな、悪い言い方をすれば「ベタ」なテーマを、決して飾らず、決して気取らず、しかし驚くほど新鮮な切り口と構成で見せてくれた手腕はただただ見事。女性ならではの繊細な描写と、たまこの同級生や家族、商店街の人々の巧みなポジショニングにより、いやらしさのない、爽やかな青春群像劇に仕上げている。

 特筆したいのは、たまこの親友で、もち蔵に思いを寄せるみどりちゃんの存在。二人の間に入り込む隙はないと覚っているのか、自らの胸の内をおくびにも出さず、親友の背中を押す役に徹するその姿は、ある意味もう一人の主人公。彼女がいたからこそ、本来ならドロドロの愛憎劇を繰り広げられてもおかしくないこの物語をギリギリで回避させ、しかし明るく楽しいだけではない、若さゆえの苦味をもたらす事にも成功していると断じたい。
 ラスト前、普段からクールに振舞う彼女が、同じく友人のかんなちゃんに触発されるままに叫ぶシーンは、まるで今まで溜め込んだ全ての痛みや苦しみ、もしかしたら生まれながらのアドバンテージを持つたまこに対する感情を、一気に吐き出しているようにすら見えた。
 一人の少女の視点を、これほどまでに使いこなす力量と、女性らしい細やかな仕事に、一人の男として尊敬するとともに、嫉妬すら覚えてしまうと正直に白状する。

 本作で唯一、非現実的な存在である喋る鳥を本編から排除した事からも察せられるように(ただし前座の短編には登場)、ごく当たり前の現実的な物語に徹するのと同様、望遠レンズのような「ぼかし」等、実写のキャメラワークを意識。しかしながら、所謂萌えアニメという括りもあえて外さず、アニメならではのコミカルなアクションや、幻想的な演出をうまく融合させ、ワンランク上の映像作品へと昇華させている点にも注目。
 個人的にアニメーションは、良くも悪くもそれ自体がファンタジーだと考えているが、ただ写実的に描く事が=リアリズムの追求ではなく、また絵や物語を含め、ファンタジーの中にもリアリズムを落とし込む事は容易ではないが可能だと、改めて気づかされた。

 恋に悩むたまこが、ある一曲の歌で救われ、自分の気持ちと向き合う覚悟を決める場面もさることながら、同じ画面上で、実は彼女の両親、あるいはその親、ひいては全ての「親」と呼ばれる人達も、かつては彼女のように恋に悩み、周囲の声や助けを得て、その答えにたどり着いた事を、さりげなく、しかし極めて優しく語っているのが、とても印象に残った。
 たまこが生まれ育った商店街も、人も、そしてたまこ自身も、時間とともに少しずつ、あるいはある瞬間劇的に変わっていく。それがいつ、どのタイミングなのかは誰にも分からないが、人生とはすなわち、そのきっかけとどう向き合い、どう受け入れていくかの繰り返しに違いない。
 物語の後、この恋がどういう形で進んでいくかは知る由もないが、少なくとも彼女は、変化を受け入れる事で、今までの「当たり前の日常」を脱却し、新しい自分になる事を決意したのだと、勝手に考察する。

 つまりこの物語は、ごく普通の少女の、ごく普通の恋の行方を軸にしつつ、彼女のその周囲の子達が大人になる(変化する)という事とどう向き合うかを描いた作品であり、さらに邪推するなら、「箱庭」と揶揄される昨今の萌えアニメ京アニが得意とするジャンルでもあるが)に対するアンチテーゼではないかと思うが、多分考えすぎだろう、ウン(エー)。


 最後のたった一言のために、1クールと1時間半を使い切ったと言っても過言ではない意欲作。テレビシリーズ未見の人でも充分楽しめるが、念のため全話でなくとも数話、特に9話とその前後を観てからの鑑賞をオススメする。こういう作品こそ、日本映画界は注目すべき!


 ☆☆☆☆★+

 完璧ではないが、完成された美しい作品。普段アニメ観ない人も是非!星4つプラス!!