「魔女の宅急便」(2014年版)鑑賞


 1989年にスタジオジブリでアニメ映画化された、角野栄子原作の児童文学を、呪怨清水崇監督、おおかみこどもの雨と雪奥寺佐渡脚本で実写映画化。


 アニメ版は、言わずと知れた御大・宮崎駿監督の代表作の一つであると同時に、日本が世界に誇る傑作長編アニメーション作品なのは、もはや論を俟たないところと断ずるが、小生にとっても同作は、生まれて初めて自分で金を払って映画館に観に行った事も含め、マイマイ新子と千年の魔法」「野獣死すべし」「キッズ・リターン」「ファイトクラブと並ぶ、生涯不変のマイベストムービー四天王のうちの一本である。

 当然、そんな超がダース単位で連なる名作アニメと同じ原作を、25年の時を経て実写映画化しようというのだから、無謀以外の何物でもなく、正直そこに聳えるハードルの高さたるや、軌道エレベーター並と言っても何ら過言ではあるまい。
 ぶっちゃけ、酷とは分かっていても心情的に比較せざるを得ず、もしこれで箸にも棒にも引っかからんモノが出てきたら、映画館を出たその足で配給元と制作下へと殴り込み、全員まとめて宮崎監督の墓前で全裸土下座させてやろうと半ば本気で考えていた(注:生きてます)。

 で、まあ結論を言うと、とりあえずそういった報道が2chにもヤフーニュースにも流れていないという事からも察していただけるように、思っていたよりはまともな内容で、もちろん抜群、アニメ版に勝るとも劣らないほどではまったくないにせよ、アニメ版未見の人なら何とか楽しめる程度の出来には仕上がっていた。

 13歳の魔女・キキが、修行のためにやってきた海の見える街で、様々な人との出逢い、事件・出来事を経験しながら成長していくという、基本的なストーリーはほとんど一緒。一人の少女の成長譚にウェイトを置いたアニメ版とは異なり、魔女=魔法に対する偏見や誤解、それに伴う人間の暗澹とした感情等、ダークな部分にまで触れているのは、思いのほか高ポイント。
 また、舞台となるコリコの町の美しい景観(ちなみに主なロケ地は香川県の小豆島だそうな)も素晴らしく、本作が初主演となる小芝風花の初々しさと相俟って、上記した暗部をも優しく包み込む、爽やかな青春ムービー然とした物語をうまく相乗させていると感じた。

 ただそれだけに、エピソード一つ一つの繋げ方があまりよろしくなく、クライマックスで昇華されるにしても、如何せんご都合的で薄味に思えてしまったのは正直痛い。特に、小芝演じるキキを呪いを連れてきたと毛嫌いする動物園のコワモテ飼育員と、キキを利用して友達に仕返ししようと企てた小娘などは、まるで誰かに洗脳でもされたのかというぐらいの、あからさまな手のひら返しっぷりで、観ていて唖然としてしまった。
 そもそも、嵐で舟もヘリコプターも出せない状況で、ほうきに乗った魔女なら大丈夫という、その理屈がさっぱり分からん。魔女なら途中で遭難しても知ったこっちゃないとでも?何なら、一切合財彼女のせいにすれば万事解決みたいな、嫌な大人の浅慮が透けて見えるのは小生だけか?
 それに付け加えるなら、その一件で町民の誤解が解けたとはとても考えにくく、仮にまだまだ「いやいや、やっぱり魔女は信用できない」という人がいたとして、多少なりそれを匂わせる演出、例えばパン屋の脇に固めておいた荷物がいくつか減っている、あるいはキキを冷たくあしらおうとするも、彼女の笑顔と周囲の人の反応で考えを改めるべきかと悩む人、といったシーンも一つもほしかったところ。
 次回作も撮る気満々なのかどうかは存じ上げないが、ムリにハッピーエンドにするより「辛い事や理不尽な事もいっぱいあるけど、それ以上にやりがいもあって毎日楽しくやってます」といった、言うならば彼女がこの街で今も生きていると思わせてくれるイマジネーションの部分を、もう少し意識していただきたかった。

 それから、やはりクライマックス、マツコ・デラックスみたいな人が嵐に向かって急に歌い出すあのシーンは、一体何だったんだろうか。まさか、歌でキキを応援している的な事か?あの場面だけ見ると、むしろマツコが嵐を呼んでいるように見えるぞ(笑)。失ったはずの歌声を、キキの頑張りで取り戻したのは分かるとして、もっとうまいやり方はなかったのか、甚だ疑問。


 とまあ、はっきり言えばツッコミどころ満載、苦笑い必至の連続で、辛くも及第点と言えなくもないが、アニメ版をこれまで20回以上は観ている小生も、本作をもう一回観たいとはぶっちゃけ思わない。とはいえ、鈍器とチェーンソー持って殴りこみに行こうかというほど酷い内容ではないので、興味のある方はどうぞ。
 ただしその際は、一時的にアニメ版の事はキレイさっぱり忘れ、大らかな広い気持ちでのご鑑賞を、強くお願い申し上げます。誰だって、犯罪者になりたくないでしょ?


 ☆☆☆★★

 キキの母親が悪い意味で本物の魔女みたいな顔してるのが、いかにもホラーの監督らしかった(笑)。大マケにマケて星3つ!!