「アメリカン・ハッスル」感想


 世界にひとつのプレイブックデヴィッド・O・ラッセル監督ダークナイト」シリーズクリスチャン・ベール主演。1970年代後半に起こった汚職スキャンダル「アブスキャム事件」を基にした、クライムストーリー。

 ちなみにタイトルに使われている「ハッスル(Hustle)」とは、「詐欺」を意味する俗語。日本における「張り切る」「がんばる」といった使われ方とはかなりニュアンスが異なるので注意。

 さておき、天才詐欺師とその愛人が、FBI捜査官から司法取引として強要される、汚職議員の一網打尽計画を軸に、3人と詐欺師の妻を含めたドロドロの四角関係と、騙す側騙される側の悲喜こもごもを精細なタッチで描いた本作。
 最初は市長とその周囲を引っ掛けるだけのつもりが、いつのまにかスケールがどんどん膨らみ、ついにはアメリカ裏社会を影の牛耳るマフィアの首領まで登場。引っ込みがつかなくなる中、いつ誰に計画がバレるのかというハラハラドキドキに加えて、登場人物のほぼ全員が抱える大小さまざまな「ウソ」がいいフックとなり、ゴッチャゴチャのカオス状態でありながら絶妙なバランスで保ったまま疾走する様は、まさに暴走列車型人間ドラマ。

 ストーリーはもちろんだが、出演俳優陣の存在もまた素晴らしい。主演のクリスチャン・ベールは、ダークナイトのイケメンぶりはどこへやら、太鼓腹にツルッパゲという「ザ・ファイター」以上の肉体改造(?)で、観客の度肝を抜いてくれる。しかも、バレバレのヅラまで装着し怪しさ全開、どこからどう見ても詐欺師にしか見えない胡散臭さで、ある意味、本作を象徴するようなキャラクターとして、堂々と君臨してる。

 ターゲットとなる市長演じるジェネミー・”そして殺す”レナーも非常にいい仕事。市の発展のために汚職に手を染めながら、根は私利私欲を持たない善良な男という難役を、変な髪形とともに見事に演じきってくれた。主にアクションメインの俳優が、こういった作品に出てくると失笑されるのが常だったりするが、元々ハート・ロッカー等でのシリアスな演技にも定評のある彼の場合、今後の活躍の場を広げる、よいきっかけになったのではないかと推測する。

 また個人的には、詐欺師の妻演じるジェニファー・ローレンスの、情緒不安定なヤンデレ具合にも注目したい。頭がいいのか悪いのか、いい女なのかただのビッチなのか分からない、ギリッギリのラインをうまく突いた言動は、本作にワンランク上の笑いと緊張をもたらしている。弓矢持って野山を駆け回るより、彼女はこれからこういった方面で才能を伸ばしていくべきじゃないかと、勝手な老婆心を呈してみる。


 弱点があるすれば、上映時間はやや長めな事と、あまりスッキリするようなオチではない事ぐらい。笑いあり涙あり、ついでに社会風刺もありの、一級娯楽作品。さあ、みんなもハッスルしようぜ!!(ダメじゃん)


 ☆☆☆★★+++

 この映画で、カツラは接着剤で着けるものだと初めて知った(笑)、星3つプラス3つ!!