「サカサマのパテマ」感想


 イヴの時間吉浦康裕原作・監督・脚本による、長編アニメーション。空を不浄のものとする独裁国家アイガに住む少年・エイジが、地下から現れた空へと落ちていくサカサマの少女・パテマとの出逢いをきっかけに、やがて世界の秘密に触れていくアクションファンタジー

 ごく普通する男の子が、恋するちょっと特別な女の子のために大きな力に立ち向かう。天空の城ラピュタに代表される、この手のジュブナイル的冒険アドベンチャーは、アニメ作家ならおそらく一度は作りたい題材と察する。かく言う小生自身も決して嫌いなジャンルではないし、事実、個人的な事を言えばすごく好きな作品であり、できる限り応援したい気持ちはあるのだが、如何せん中身が伴わず、やや煮込みの足りなさを感じてしまった。

 地上人と地下の民とで、受ける重力の方向が違うというアイディアは非常に素晴らしく、それによってもたらされるパズルゲームのようなアクションの面白さ、加えて異なる環境で生まれ育った二人が手を繋ぐ=心を通わせる過程をごく自然に、いやらしさ無く表現している点はグッド。
 ストーリーそのもののテンポもよく、適度に山アリ谷アリの、次に何が来るのかハラハラドキドキさせてくれる展開も好印象で、「そう来たか!」と思わず膝を叩きたくなるオチもなかなか。細部を除いてざっくり観れば、それなりによく出来た作品ではある。

 が、しかし、肝心なその「細部」のツメが少々甘く、例えばサカサマの民はどうやって地下に逃げ隠れたのか、どうして独裁国家アイガが誕生したのか、なぜあんな小悪党然とした男にみなが盲目的な忠誠を誓うのか、そもそもどうやって独裁者にまで上り詰めたのか、スッポリ抜け落ちているのは正直痛い。そんなもん、いちいち気にするほどの事でもないやんけ、と思う人もいるかもしれないが、フィクションにせいファンタジーにせい、やはり必要最小限の必然性はほしいところ。

 また、せっかく空の上から世界を俯瞰する壮大さを持ちながら、その世界自体がものすごくミニマム且つコンパクトな物に思えてしまったのも、かなり惜しい。作品の設定上、世界観の上下への広がりは非常によかっただけに、できればアイガの外がどうなっているのか、その昔空へと「落ちた」人々はどうなったのかも、匂わす程度でもあれば。

 パテマが慕う冒険家ラゴスをはじめ、登場人物の使い方も上手くなく、特に治安警察中央区管轄隊隊長のジャックや、エイジに気があると思しき少女・カホなどは、掘り下げ方次第でいくらでも面白くなるポテンシャルを秘めていたように思える。
 できる限り余計な物を削ぎ落とし、画面に映らない部分や、説明過多にありそうな要素を排除していった結果とも思えるが、同時に悪い意味での雑味や遊びまでも削り取ってしまったように感じてしまった。偉そうな事を言うようで恐縮だが(いつもの事か?)、まだ経験の浅い監督だけに、その辺の匙加減を身体が覚えていないのかもしれない。とはいえ、それでここまでの作品を作れるのだから、やはり大変な才能をお持ちなのだろう。今後のご活躍に注目したい。

 誰もがやりがたるジャンル=簡単なわけはなく、むしろ、だからこそヘタには作れないという具体のような作品。失敗作とまでは言わないが、まだまだ山積みの課題を残す、しかし確かなネクストを感じさせる。余談だが、個人的にこういう人には、「SHORT PEACE」のような短尺のオムニバスの方が、その才を生かせるのではと勝手に想像してみる。

 ☆☆☆★★

 少なくとも、某フラク○ルの100倍は面白い(笑)、星3つ!!

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