「ゼロ・グラビティ」感想


 「トゥモローワールド」アルフォンソ・キュアロン監督ものすごくうるさくて、ありえないほど近いサンドラ・ブロック主演。事故により宇宙空間に取り残された医療技師が、地球へ帰還すべく奮闘するヒューマン・サスペンス。


 酸素、水、温度、そして重力と、おおよそ生命活動に必要なあらゆるものから切り離された空間内だけに、その中へ放り出される絶望感、恐怖感たるや、想像を絶する。まして救助の当てもなく、当然奇跡や偶然など起こりようのない状況では、並の人間など数秒で発狂するに違いあるまい。
 そうした、まさに極限の極限状態(我ながらおかしな表現だが)を、医療技師演じるサンドラ・ブロックと、ベテラン宇宙飛行士演じるジョージ・クルーニーの表情や息遣い、あるいは生き残ろうと必死に徒手空拳する姿を巧みに使い、劇場内に再現させている。

 また、どこまでも鮮明な、しかし無限に続く宇宙の暗闇を描いた圧倒的映像センスもさることながら、3Dを用いてより深く、より不気味に、そしてより美しいモノへと昇華させたアイディアも素晴らしい。従来、モノが飛び出して見える事に終始しがちなこの技術を、奥行きに使用するというコペルニクス的発想には、ただただ脱帽。個人的には、耳をすませばで背景を遠さに驚いた時と同等の衝撃を受けた。
 映像面についてもう一つ付け加えると、冒頭の5分近い(体感)長回しをはじめ、全体的に一回のカットを非常に長く撮ってある点にも注目したい。音のない静寂空間を「音」で表現するという、一見矛盾とも言える難題へ果敢に挑み、それを見事成就。と同時に、呼吸も躊躇われるほどの緊張感を相乗的に齎せている点も含め、全てがこの約90分前後のフィルムの中に、身近なようで実はまったく未曾有の世界である「宇宙空間」を作り出すピースとして、十全に機能している。

 怪獣も宇宙人も、当然正義のヒーローも一切出てこない。あくまで、無力なはずの人間が、自らが生きてもう一度地球の大地に立つため、足掻き、もがき、時に泣き叫び、それでも微かな希望に手を伸ばす様を描き切った、どこまでもストイックなスタイル。そのため出演者はわずか10人、しかも顔を出して動いているのは主演の二人だけという、徹底的にムダを排した作りだが、ぶっちゃけヘタな2時間越えの大作ハリウッド映画よりよっぽどスリリングで、鑑賞後の満足度も高い。

 これは21世紀版「2001年宇宙の旅」と言うべき、歴史に残る傑作。未見の方は、今すぐ映画館へ。もちろん、3Dでの鑑賞をオススメします。


 ☆☆☆☆★

 映像美ここに極まれり、星4つ!!