「かぐや姫の物語」感想


 「ホーホケキョとなりの山田くん以来14年ぶりとなる、高畑勲監督(兼・脚本、原案)最新作は、竹取物語を基にした長編アニメーション。

 まったく何の変哲もない、我々のよく知るごく当たり前のかぐや姫。にもかかわらず、これほどまでに観る者の心を惹きつけ、最上級のサティスファクションをもたらす事ができるとは、改めて「あの宮崎駿がどうしても勝てなかった男」高畑勲の圧倒的な才能と実力を思い知らされた。

 正直なところ本作を賞賛するにあたって、小生のボキャブラリーではとてもじゃないが足りない。ちょっと冷静に考えてみていただきたい。そこら辺の小学生でも知っているであろう、日本で最も有名な古典文学を、足しも引きもせずにほとんどそのまま、ましてそれをエンターティメントとして、客から金を取る作品に仕上げる事が、どれだけ至難の業であるか。
 並の映画人なら、おそらく実は宇宙人でしただの、姫が要求した宝は結界を云々だの余計な設定を増やすか、あるいはなぜかセリフに英単語が入ってたり、意味もなくダンスナンバーに合わせてみんな踊ったりと、中途半端な時代考証無視演出で誤魔化すかが限界。よほどのベテランか才人でも、多少なりのアレンジ、または何かしらの付け足しがなければ、商品として成立させる事は、相当に難しいだろうと察する。

 それが悪い、という意味ではない。むしろ、誰にもできないし、やろうとしない仕事に違いないが、本作の恐ろしいところは、まさにその「ほぼ不可能に近い仕事」を平然と、しかも完璧にやってのけている点にある。それも、自身の後輩であり盟友である宮崎監督が、最後の力を振り絞って渾身のボールを投げているその隣で。
 意図してか、はたまた単なる偶然か無意識か、その渾身のボールが霞むほどの超剛速球を、見た瞬間に誰もが「あ、コレ絶対打てない。仮にバットに当たっても、俺の腕ごとへし折れる」と分かってしまうような強烈なストレートを、高畑監督はニコニコしながらブン投げたのである。誤解を恐れず言えば、これを「怪物」と呼ばずして、何と言おうか。
 監督ほどのキャリアと実績あってこそ、という部分を踏まえても、こんな仕事が出来る御仁は、世界広しといえど一人しかいまい。まさしく、拳を窮めた者だけが体得できる正拳突きの具体である。
(ちなみに、現在公開中の宮崎監督作品を貶める意図はまったくないので、その辺あしからず)

 ついでに、といっては何だが、水墨画のような独特の作画についても言及しておきたい。柔らかさと躍動感、いい意味でのアンニュイさと力強さを併せ持ち、物語をより奥深いものへと昇華させるのに一役買っているのはもちろんとして、新しさの中に懐かしさをも秘めたあのタッチにより、性別、年代、時代を問わず、古さをまったく感じずに楽しめる普遍性を、作品全体にもたらしている。
 いわゆる「萌え」なんぞには決して靡かず、かといって何人にも媚びない。まさしく孤高の到達点というべき、真の意味でのオンリーワンと評したい。

 本作を観た後だと、ストーリーがどうだの、展開がどうだの、まして作画がどうだのと思う事すら、バカらしくなってしまう。我々がアニメとは、そしてエンターティメントとはこういうモノだと思い込んでいた、否、思い込んでいた事にさえ気がつかなかった枠組みを、本作は2、3つ一気にぶち壊してくれた。
 断っておくが、これは原点回帰なんて生易しいものではない。これまでの形骸化された常識を破壊し、作品作りを根本から見つめ直すべく、日本アニメ界最後の巨匠が世に放った新たなる指針であり、到達点であり、楔である。これから後に制作されるアニメ作品は、本作を越えるべく奮起するか、他の路線に活路を見出すか、それとも諦めるかの3つに一つだろうと推測する。


 137分という長尺も、不思議なほど苦にならない。とにかく、未見の人は今すぐ映画館へ。この作品だけは、見逃してはならない。


 ポロリもあるしね!!(エー)


 ☆☆☆☆★+

 最後に一つだけ余談。かぐや姫について回るゆるキャラみたいな侍女、めっさ可愛い(笑)、星4つプラス!!



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