「キャプテンハーロック」感想


 松本零士原作の伝説的スペースオペラコミックを、APPLESEED荒牧伸志監督機動戦士ガンダムUC福井晴敏脚本で長編CGアニメ映画化。

 数ある松本作品の中でも、銀河鉄道999」と人気を二分すると言われる本作。おそらく、全国の熱烈なハーロックファンからは「こんなのハーロックじゃねぇ!!」との怒声がシュプレヒコールのごとく飛び交っていると察する。
 確かに、時代の流れか代名詞である通称「零士メーター(松本メーター)」がほとんど登場せず、キャラクター設定やストーリーもまるで変更されている。悪い言い方をすれば、これをムリにハーロックとして制作する理由は少なく、設定だけを借りた別のSF作品でもよかったのでは、という気さえしてしまう。
 が、それを踏まえた上であえて言わせていただくと、一純粋なSFアクション活劇、あるいはCGアニメとして観た場合、これは非常に良くできた、日本がエンタメ産業で世界と互角に渡り合える事を証明する記念碑的作品であり、「えー、どうせハリウッドの劣化コピーでしょう?」などと食わず嫌いしているにこそおススメしたい秀作であると、声を大にして訴えたい。

 今更CGなんざ褒めないと誓った小生だが、本作のそれはまさしく圧巻。写実的描写とアニメ表現をうまく融合させた、日本人独特の映像センスが生み出す背景及びメカ描写はもとより、リアルに描かれた登場人物と、トリさんのようないかにもマンガチックなキャラクターが違和感なく同居できる微妙なさじ加減も見事。ピクサーに代表されるハリウッドCGとはまた違った、現在進行形のメイド・イン・ジャパンスタイルの確立と断じたい。
 余談だが、アルカディア号クルーの紅一点(?)・ケイの、繊細すぎるが故に真似るのが難しいとされる、いわゆる「松本ライン」のプロポーションと美しい長髪の再現度は必見。普段の小生なら即座に「踏まれながら罵られたい」とか弩変態な事を言ってしまいそうだが、むしろ罵られながら踏まれt(以下略)。

 閑話休題。 

 また、全宇宙の存亡をかけた、壮大なスペースオペラでありながら、一人一人の思想、相関にフォーカスされたドラマ作りも、なかなかの見応え。もう一人の(真の?)主人公ともいうべき、三浦春馬演じるヤマの成長譚的側面が強く、正直小栗旬演じるハーロックの存在が薄めになってしまってはいるが、マクロサイズの事例を、一個人のミクロサイズから展望し、発展させていくその様は、あたかも全宇宙から見れば小さな塵にも満たないはずの一人の人間でさえ、その広大な世界を形成するパーツの一つである事を示しているかのような、とてつもない浪漫を感じさせてくれた。
 個人的に注目したいのは、本作の敵役に当たるガイア・サンクションの存在。パッと見、滅亡寸前の全人類より己の権力に固執するクズジジイどもの集団であり、実際ほとんどがそうでありながら、見方によっては残り少ない人類の寿命に、たとえ幻でも希望を与えようとするためあえて悪に徹しようとしているようにも思えた。ハーロック達をはじめ、絶対の正義、絶対の正解を持たず、それでも自らの信念に基づき、行動する事こそ、本作の根底にあるモノではないかと、勝手に推測してみる。


 まあ、例によって細かい部分でも突っ込みどころは多く、例えば侵入禁止区域である地球に随分とあっさり侵入できちゃったり、向こうの計画が分かってんなら先回りして叩けばいいじゃん等、若干の甘さは見受けられる。しかし、それを補って余りあるだけのエネルギーと情熱、そして「日本映画も、やればできるじゃん!!」と思わせてくれるだけのパワーが、この作品には込められている。
 何故か日本国内では評価の低い印象を受ける荒牧監督だが、本作がその名と才能を広く知らしめる名刺代わりに、そして世界中に「日本にはこれだけのCGアニメが作れる人物がいるんだぞ」と叩きつける挑戦状となる事を、心から願う。


 …と同時に、本作を鑑賞された諸兄姉には、同監督の他作品の視聴を強く勧めてみる。APPLESEEDはもちろんとして、続編の「EX MACHINA」も、オリジナルテレビシリーズの「VIPER'S CREEDもすっごい面白いんだぞー。スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン」だって、ファンからは色々言われてるみたいだけど、SFアクションとしては最高の部類だし、何よりCGアニメで珍しくオッパイポロリが(以下略)。


 ☆☆☆★★+++

 日本映画界も、某ガッチョメンで数十億溶かすぐらいならこういう逸材に投資しろよマジでマジで!!星3つプラス3つ!!


 ハイ、ここからネタバレを含む戯言。(白反転)

 ラストシーン。ヤマが二代目ハーロックになるのは何となく予測できたけども、死んだと思われたクルー達が何事もなかったように起き上がって、意気揚々と出航する場面に唖然とした人も多いと察する。
 あくまで個人的な推測だが、長い間ハーロックとともにアルカディアで旅をしている間、彼らもまたダークマターエンジンの干渉され、知らず知らずのうちに不老不死の身体になっていたのだとしたら。あるいは、クライマックスの全エネルギー開放により、ハーロックと志を同じくする者だけが、トチローの意思によって選別されたとすれば。
 そしておそらく、ヤマは次の世代へと受け継がれる命を見届ける役割を担う者として、あの眼帯を手渡されたのでは。随分とご都合主義な意見だと承知の上だが、そう考えると、全てがしっくり来る。この大宇宙に浪漫がある限り、アルカディアの旅はこれからも永遠に続くのだ!!(ダレ?)

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